皮質脊髄路の興奮性と歩行回復の関係

本日は、「皮質脊髄路の興奮性が歩行回復にどのように影響するか」について、

スライドを提示しながらお話していきます。

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①健常人の定常歩行時における皮質脊髄路の関与

以下の論文は、健常人を対象に、定常歩行時における脳波の活動と下肢筋活動(内側広筋、大腿二頭筋、前脛骨筋)がどの程度接続性が強いか検証したものになります。

結果、非運動皮質は運動皮質に比べて、各下肢筋活動と接続性があることがわかった。

また、特に遊脚期における大腿二頭筋と前脛骨筋において強い接続性がみられた

このことより、大脳皮質は定常歩行時においても下肢筋の制御に関与していることがわかる。

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皮質脊髄路の興奮性が歩行回復に与える影響

上の論文は、介助下でも歩行不能な急性期の脳卒中患者を対象に、損傷半球一次運動野にTMSをした際の麻痺側前脛骨筋におけるMEPの有無が、6か月後の下肢機能と歩行能力にどのような影響を与えるか検証している。

結果、急性期の段階で前脛骨筋のMEPが出現する群においては、しない群に比べて下肢機能、歩行能力が優位に回復していた。

下の論文は、慢性期の脳卒中患者を対象に、損傷半球一次運動野にTMSをした際の麻痺側内側広筋におけるMEPの大きさが、運動麻痺と歩行能力にどのような影響を与えるか検証した。

結果、MEPが大きい患者ほど、運動麻痺が軽度であり、歩行速度が速かった。(詳細に述べると、損傷半球にTMSを当てた際の麻痺側内側広筋のMEPが、非損傷半球にTMSを当てた際の麻痺側内側広筋のMEPより大きい患者ほど)

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以下の論文は、脊損患者に対して、4か月間の歩行トレーニング前後における皮質脊髄路興奮性の指標である筋間コヒーレンスのβ帯域の変化と歩行回復との関係を検証している。結果、歩行トレーニングによる筋間コヒーレンスの増大(皮質脊髄路の興奮性の増大)は、歩行回復と優位に関係していた。(コヒーレンスの変化が乏しい症例においては歩行能力も低いままであった)

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皮質脊髄路興奮性の低下は、歩行時の足下がりや底屈モーメントの減少と関係

上の論文は、慢性期の脳卒中患者を対象に、遊脚期における前脛骨筋のコヒーレンスと歩行時の足下がりの関係を調べたものである。

非麻痺側前脛骨筋に比べると、麻痺側前脛骨筋のコヒーレンス(皮質脊髄路の興奮性)は、遊脚期の初期で特に減少しており、これが歩行時の足下がりと関係していることがわかった。

下の論文は、慢性期の脳卒中患者を対象に、麻痺側足関節底屈筋のMEPの大きさと歩行速度、立脚後期での底屈モーメントの関係を調査したものである。左のAは麻痺側足関節底屈筋のMEPが小さい患者(非麻痺側底屈筋のMEPとの非対称が大きい)、Bは麻痺側足関節底屈筋のMEPが大きい患者(非麻痺側底屈筋のMEPとの非対称性が小さい)を示している。

結果、麻痺側足関節底屈筋のMEPが大きい患者ほど(非麻痺側足関節底屈筋のMEPとの非対称性が小さい)、歩行速度が速く、立脚後期での底屈モーメントが大きかった。

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皮質脊髄路の興奮性を高めるトレーニングとは!?

では、皮質脊髄路の興奮性を増大させるトレーニングとは何か。歩行トレーニングの量が重要。以下の論文は、慢性期の脳卒中患者を対象に、4週間一般的なリハを受けたコントロール群とコントロール群に4週間の歩行トレーニングを追加した介入群において、トレーニングの前後での前脛骨筋と母趾外転筋のMEPを測定している。

結果、介入群において、両筋のMEPが増大していることが分かった。(介入群において、バランス能力も向上したみたいです。)

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また、脳を直接刺激するようなtDCSや末梢電気刺激も皮質脊髄路の興奮性を高めると言われています。特に歩行トレーニングにtDCSや末梢電気刺激を組み合わせたトレーニングや、tDCSと末梢電気刺激を組み合わせたトレーニングなども有効であると報告されています。

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⑤運動機能や歩行能力の回復に関係する脳の可塑性とは

上の論文は、上肢の研究ですが、皮質脊髄路の損傷の程度により分けている。左のように皮質脊髄路の損傷が軽度である患者においては、一次運動野の周囲にある補足運動野や運動前野などの損傷半球における周囲の領域が活性化する。

また、右のように皮質脊髄路の損傷が大きい患者においては、損傷半球では回復をアシストすることが困難であるため、非損傷半球の運動前野や補足運動野が回復をアシストします

また、皮質脊髄路の損傷が重度な患者は、下肢運動時や歩行時においても、非損傷半球の活動が高まることを特徴としている。また、この非損傷半球の活性化は下肢機能や歩行回復に重要である可能性があります。(代償経路の興奮性を高める)

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皮質脊髄路興奮性の大きさは下肢機能や歩行回復に重要であることがわかります。

 

 

 

 

 

パーキンソン病のすくみ足について

パーキンソン病患者のすくみ足について調べる機会があったため、今回はすくみ足の生じる神経学的メカニズムとすくみ足に対するリハビリテーションについて、文献ベースに話していきます。

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①すくみ足について

すくみ足はパーキンソン病患者の歩行特徴の一つとして知られており、生じる場面は旋回や、認知タスクの負荷、情動など様々です。

また、すくみ足は左右へCoPが移動する際のリズムの障害として捉えられており、そのリズムが異常に速くなることで3-8Hzの周波数で交互に足が震えると言われています。

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②すくみ足の生じる神経学的メカニズム

1.歩行の自動的制御の障害

すくみ足の根本的な原因は、ドーパミンの欠乏により直接路の破綻が生じ、脳幹、脊髄などの自動的制御系が抑制されることにあるとされています。

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また、すくみ足には補足運動野が強く関与している可能性がありますパーキンソン病患者は、病期の初期から補足運動野の機能が低下すると言われています。これは、大脳皮質-基底核ループに補足運動野が密接に関与しているからだと言われています。

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加えて、補足運動野は自動的制御系にも関与している可能性があります。これは、補足運動野が内的な運動制御に重要であるからだと言われています。

内的な運動制御とは、反復的な動作や習慣的な動作のこと指します。例えば、信号が青なら歩く、赤なら止まるといった経験に基づいた運動や、ひたすら置いてある荷物を運ぶなどの反復的な動作に基づいた運動制御を指します。そのため、補足運動野の機能が低下すると、この経験に基づいた動作が障害されることで、自動的制御の障害に影響が出ます。

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このように補足運動野の機能が低下することは、すくみ足と強く関連しているようです。

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また、補足運動野の機能低下がすくみ足に繋がるもう一つの理由に、ハイパー直接路の障害が関与しているとも言われています。ハイパー直接路は、補足運動野と視床下核に関連する経路であり、この経路は葛藤信号の処理(道を歩いている際に気になる光景や人通りなどがあっても、それに注意を背けずに歩くような)に重要である。

ハイパー直接路の障害と細い道を通過する際のすくみ足の発生率は相関があるようです。

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 2,随意的制御の増大

1で示した自動的制御が障害されると、それを代償するために大脳皮質や小脳などの随意的な制御が増大します。この随意的制御の増大が、歩行の変動性の増大などに関与しているそうです。

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 しかし、パーキンソン病の病期が進行すると前頭前野の機能が低下すると言われており、前頭前野の機能低下とすくみ足の発生率は関係しているようです。

3,認知機能の低下

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 前頭前野の機能低下により、認知機能の低下やdual task歩行能力の低下もすくみ足の発生と関係しているようです。

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 このように、認知的課題はすくみ足の発生に強く関係しており、特に配分性の注意や転換性の注意、選択性の注意課題などの負荷が引き金になりやすい可能性があります。

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 すくみ足の発生のメカニズムのまとめです。

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 ③すくみ足への治療

すくみ足へは、一般的には薬剤や深部脳刺激などが医学的に行われています。

リハビリテーションとしては、cueing刺激などが行われており、様々な文献でその効果は議論されています。主にcueing中や直進歩行時での検証は多くされていますが、cueingなしや方向転換時などでは効果が持続しにくいという報告もあります。

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 現在、認知的トレーニングがすくみ足の治療に有効な可能性もあります。

これは、認知的容量を増大させることで、外部からの認知的負荷が与えられた際に対応できるようになるからであると言われています。特に、患者のすくみ足が生じる場面(dual taskや転換性の注意、運動を抑制する場面など)を評価し、歩行トレーニング中あるいは、歩行トレーニング外でそこに対したアプローチをすることが有効かもしれません。しかし、比較的FoGの重症度が低い患者に対して、有効であるとも言われており、効果もまちまちな部分はあります。

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以上より、すくみあしについて話させて頂きましたが、一貫した報告はされていない点が多く、私自身も曖昧な点が多いです。特に治療に関しては、一貫されていない点も多いため、これからもっと学ぶ必要があります。。

 

 

ptrehabro.hatenablog.com

 

 

大脳基底核の運動制御

今回は、大脳基底核パーキンソン病について調べる機会があったため、

その情報を論文ベースで載せていきます。

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1,大脳基底核は最古の脊椎動物が存在しており、食事を食べたり、睡眠したりなど意思に基づく生得的な行動に重要です。

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2,大脳基底核の中でも入力核(被殻尾状核)、出力核(淡蒼球黒質網様体)にわかれています。

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3,大脳基底核は、皮質、辺縁系、脳幹と密接にかかわっています。

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4,大脳基底核には運動ループ、認知ループ、辺縁系ループがあり、それぞれ接続している部位も異なります。運動ループは補足運動野と被殻、認知・辺縁系ループは尾状核前頭前野が重要です。

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5,大脳基底核は抑制性の出力を脳幹に送っております。

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6,大脳基底核の経路は直接路、間接路、ハイパー直接路に分かれており、運動の発現と停止に重要な役割を果たします。

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7,ハイパー直接路は運動を急に停止したり、情報の干渉が生じた際に必要な情報を選択するときに重要です。

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8,ハイパー直接路は伝導速度が最も早く、先ほどの急停止などにも説明にもなります。

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9,go課題とno go課題により、3つの経路の役割が検証されています。

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次に、パーキンソン病の病理と治療に関して載せていきます。。

 

皮質脊髄路の残存性は下肢機能や歩行機能を予測する

今回は、脳卒中後の神経可塑性と下肢機能・歩行能力の回復についてです。

特に上肢の研究に関しては、脳卒中後の損傷半球および非損傷半球の活性化と上肢機能との関連が多く検証されていますが、下肢機能や歩行能力については限られています。そのため、今回はそこにスポットを当てたいくつかの論文のabstruct(図を提示しながら)をいくつか紹介します。

1)Prediction of lower limb motor outcomes based on transcranial magnetic stimulation findings in patients with an infarct of the anterior cerebral artery. Min Cheol Chang,2015

2)Relationships between functional and structural corticospinal tract integrity and walking post stroke.Gowri Jayaram,2012

3)Ipsilateral Motor Pathways and Transcallosal Inhibition During Lower Limb Movement After Stroke.Cleland BT,2021

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1)皮質脊髄路の残存の有無は、下肢機能と歩行能力の回復を予測する

Prediction of lower limb motor outcomes based on transcranial magnetic stimulation findings in patients with an infarct of the anterior cerebral artery. Min Cheol Chang,2015

backgrouund

皮質脊髄路(CST)は、人間の脳内で運動機能に最も重要な神経路の一つである。近年、経頭蓋磁気刺激(TMS)が,脳梗塞患者のCSTの状態を評価し,運動転帰を予測する上で有用であることがいくつかの研究で示されている。しかし、TMSが長期的な運動予後を確実に予測できるかどうかは不明のままであったため、今回の研究ではこれを評価した。

subjects and methods

対称は、発症後24時間以内に、患部の下肢が重力によらず動かせない程度の重度の脱力が認められた14名の患者(男性5名,女性9名,年齢66.5±10.9歳,範囲37~76歳)であった。各患者の運動機能は,梗塞発症時と発症後6カ月目の2回測定した。運動機能の評価は, Motricity Indices(MI)とFunctional Ambulation Category(FAC)スコアを用いて行った。MIは最大スコア100であり、0;動かない,28;触知できる収縮があるが,動かない,42;動くが,フルレンジではない,または重力に抗して動かない,56;重力に抗してフルレンジで動くが,抵抗に抗して動かない,74;抵抗に抗して動くが,対側に比べて弱い,100;正常。股関節屈筋,膝関節伸筋,足関節背屈筋のMIスコアの平均値を示す。FACスコアは15m歩行時に必要な介助のレベルに基づいている。6つのカテゴリーは以下の通りである。0,非歩行,1,1人からの継続的な支援が必要,2,1人からの断続的な支援が必要,3,言葉による監視のみが必要,4,階段や不整地での支援が必要,5,どこでも自立して歩けるでスコアを付けた。

TMSは、発症後7~28日以内に行い、損傷側M1に刺激を行いリラックスした状態の麻痺側前脛骨筋からMEPを得た。そして、急性期に麻痺側前脛骨筋にMEPが出現する人としない人とで、運動機能と歩行機能の変化を評価した。

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図1,TMS(+)群では患部のTAにMEPが誘発され,TMS(-)群では患部のTAにMEPが出現しなかった。

results

MEPがある人とない人で、初期の段階では下肢運動機能と歩行能力に差はなかった。しかし、MEPが出現する人では、運動機能と歩行機能が優位に増大する。TMS試験でCSTの完全性が保たれている患者は、CSTが保たれていない患者に比べて、下肢や歩行の運動機能の回復が良好であることがわかった。また、CSTが温存された患者は、発症後6カ月で全員が自立歩行できた(FAC, 3)のに対し、CSTが温存されなかった患者は、誰かに支えてもらわないと歩けない状態であった。

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図2,TMS(+)は下肢機能・歩行能力が向上した

conclusion

重度脳卒中患者の早期に実施したTMSは,下肢の運動機能や歩行の回復を予測する効果があると考えられる。このように、早期にTMSでCSTの保存を判断することは、最終的な患部下肢の運動機能や歩行機能の回復を予測するのに役立つと考えられる。

 

2)皮質脊髄路の残存が大きいものほど、非損傷半球との接続が大きくなり、非損傷半球からの活動が高いほど歩行速度が遅く運動麻痺が重度である傾向にある。

Relationships between functional and structural corticospinal tract integrity and walking post stroke.Gowri Jayaram,2012

○background and purpose

脳卒中後の上肢の回復に関する研究では,皮質脊髄路(CST)の構造的・機能的完全性が臨床転帰を決定する上で重要であることが強調されている。しかし,下肢の場合にはそのような関係は十分に検討されていない。本研究では,歩行障害の違いがCSTの構造的・機能的完全性の違いと関連するかどうかを検証することを目的とした。

subjects and methods

慢性期脳卒中患者に対して(平均FMスコア23.8)、経頭蓋磁気刺激を用いて各運動野を刺激しながら,両側の外側広筋(VL)から筋電図を採取し,これらの筋電図を用いて、麻痺側および非麻痺側下肢の同側および対側のリクルート曲線を算出した。これらのリクルート曲線の傾きを用いて,脳卒中患者の両半球の運動野から下肢への機能的連結性の強さを調べ,同側と対側の出力の比を機能的連結性比(FCR)として算出した。CSTの構造的完全性は、拡散テンソルMRIを用いて、内包の分画異方性(FA)の非対称性を測定することで評価した。また、下肢の機能障害と歩行速度も測定した。FCR値が1.0を超える場合は、運動皮質と下肢運動ニューロンの間の同側の接続性が主に反映されていると解釈し(麻痺肢に対しては非損傷半球との接続が強いことを指す)、FCR値が1.0未満の場合は、対側の接続性が主に反映されていると解釈した(麻痺肢に対しては損傷半球との接続が強いことを指す)。病変のある内方後脚と病変のない内方後脚の平均FAを算出し、非対称性を計算した。対称的なFA値であればFA非対称性の値は0(皮質脊髄路の残存度が大きい)となり、PLICのFA値の大脳半球間の非対称性が大きければ1に近い値(皮質脊髄路の損傷が大きい)となる。

results

3患者のTMSの結果であるが、非麻痺側下肢筋に関しては非損傷半球にTMSを当てた際の方がMEPの上昇が大きい(FCRが低値)。麻痺側下肢に関しては非損傷半球にTMSを当てた時の方がMEPが上昇する患者もいる(FCRが高値)。

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図1,3患者の両側の外側広筋(VL)から得たMEPとFCR

全患者の情報とFA値、FCR値を記載する。

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表1

FCRと歩行速度の結果より、非損傷半球からの活動が高いほど歩行速度が遅く運動麻痺が重度であった。

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図1

以下に内方後脚のFA値と非損傷半球の活性化との関係(FCR)を示す。

内包後脚のFAの非対称性が大きい人は、非損傷半球の活性化が大きい。

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図2

conclusion

対側の運動皮質と障害側下肢との間の同側連結性が相対的に高い患者は、行動障害が大きく、同側半球のCSTの構造的損傷が大きかった。今回発表された皮質脊髄路の機能的および構造的な測定値と行動結果との関係は、脳卒中後の歩行回復に影響を及ぼす可能性のある要因についての理解を深めるとともに、患者の残存する解剖学的および生理学的な基盤を特徴づける上で、神経生理学的および画像診断技術が補完的な役割を果たすことを示している。また、損傷度が大きい患者でも、歩行速度が維持されているものもいることから、非損傷半球との接続は正の要因にもなりうる。このような評価を行うことは、患者の回復の可能性を最大限に引き出すような、より個別化された治療につながるかもしれません。

 

3)非損傷半球の活性化と下肢機能・歩行能力について

脳卒中患者の下肢運動時には、非麻痺肢に比べて麻痺肢では非損傷半球からの接続が大きくなる。そして、単純課題では非損傷半球からの関与が、複雑課題では損傷半球からの関与が大きくなるものほど歩行能力が高い可能性がある。

Ipsilateral Motor Pathways and Transcallosal Inhibition During Lower Limb Movement After Stroke.Cleland BT,2021

○background and purpose
脳卒中リハビリテーションは、麻痺肢への損傷半球の寄与と,非損傷半球の寄与をよりよく理解することで改善される可能性がある。上肢の研究ではより複雑な課題は(摘まむなど)、非損傷半球よりも損傷半球の活性化が重要であるとされているが、下肢においては課題内容における損傷半球と非損傷半球の活性化の違いは不明である。
脳卒中後の非損傷半球の興奮性は下肢運動課題内容に依存するかどうか、また、これらの要因が歩行能力などと関連するかどうかを明らかにする。

methods

対称は、下肢FMAが平均23点の軽度から-中等度の運動麻痺を持つ慢性期脳卒中患者29名とした。(表1)

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表1,各患者の個人情報と運動麻痺の程度、麻痺側および非麻痺側の歩行中のパラメーターを示す

正弦波をスクリーンに表示し,参加者は正弦波の位置に合わせて足首の背屈と底屈を行う課題を実施した(図1)。課題は、片側のみ足関節を動かす片側条件、両側動かす両側条件、正弦波とは関係なく片側の足関節を等尺的に背屈させる等尺条件を設けた。片側条件では,標的の足関節でタスクを実行し,対側(非標的)の足は静止したままであった。両側条件では、スクリーンに別々に映る波に対して、それぞれの足関節を底背屈した。片側課題と等尺課題は単純課題、両側課題ではより正確さを要する複雑課題として位置付けした

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図1,片側、両側条件では波に合わせて足関節を底背屈させる

また、各課題中に経頭蓋磁気刺激(TMS)を用いて、両側の前脛骨筋への損傷半球からの皮質脊髄興奮性(MEP)と非損傷半球からの皮質脊髄興奮性を算出した(図2)。そして、各課題中の半球間興奮性の指標(ICE)と、皮質内興奮性の指標(iSP,cSP)を算出した。

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図2

results

図3より、同側の相対的な興奮性が、非麻痺側TAよりも麻痺側TAで高いことを発見した。(麻痺肢対する非損傷半球からの接続が強い)

ICEの結果から、脳卒中患者では麻痺肢に対する非損傷半球からの接続が大きいことがわかる。特に、等尺性収縮に比べて、片側・両側課題で有意であった。

iSPの結果から、麻痺側下肢の片側・両側課題では、同側からの影響が大きいと言える。cSPの結果から、麻痺肢に対する非損傷半球からの接続は低下していた。

片側・両側の間での有意差はなかった。

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図3

図4には、図3の結果と各患者の歩行パラメーターとの関連を示す。各課題時の麻痺側TAに対する非損傷半球の関与と歩行速度の間に有意差はなかったが、両側課題時には損傷半球の関与、片側課題時と等尺課題では非損傷半球からの関与が大きいほど歩行速度が速い傾向にあった。これは両側課題のような複雑な課題では、麻痺側TAへの非損傷半球よりも損傷半球の関与が重要であると言える。一方、片側課題や等尺課題のような単純な課題であれば、非損傷半球の関与が重要であると言える。

波に対して、正確に足関節を底背屈できているかどうかは、麻痺側肢の等尺課題時に損傷半球と非損傷半球の両側の接続の大きさと有意差があった。

また、歩行の対称性については、両側課題時の非麻痺側TAへの対側半球からの関与と有意差があった(非麻痺側TAと非損傷半球の接続)。

 

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図4

conclusion

麻痺肢に対する非損傷半球からの経路の接続は、単純な課題である片側課題でもっとも大きかった。また、非損傷半球からの経路の接続と歩行速度の間に有意差はなかったが、複雑な課題である両側課題時に非損傷半球からの関与が少ないほど歩行速度が速く、単純な課題である片側課題と等尺課題時に非損傷半球からの関与が大きくなるほど歩行速度が速い傾向にあった。また、非麻痺側肢に対しては、対側からの経路である非損傷半球からの関与の大きさが歩行対称性に重要な因子であった

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まとめ

今回は、損傷半球からの皮質脊髄路の残存性および非損傷半球の興奮性増大と、下肢機能・歩行機能にどのような影響を起こすのか論文を紹介しました。

これらや、ほかの知見からも損傷半球から麻痺側肢へのMEPが出現する者(皮質脊髄路が残存している者)は下肢機能・歩行能力が高い傾向にあります。

しかし、下肢機能に関する研究は慢性期患者を対象とした研究がほとんどであることや、縦断的な研究は少ないです。また、皮質脊髄路が残存しているのか、していないのかで比較している研究は多いものの、皮質脊髄路が残存していない者同士を対象とした研究は少ないです。特に皮質脊髄路が残存していないものは、非損傷半球からの接続性の増大は歩行能力に正の効果を示す可能性があるため、このような対象に対する知見が必要であるかもしれません。

 

重度脳卒中患者の神経可塑性についてのモデル

現在、脳卒中患者に対して、神経可塑性を促進するための刺激両方(tDCSやTMSなど)が使用されるようになってきています。しかし、神経可塑性のパターンは個人によって異なり、特に重症度や病期に大きく左右されます。ここでは、特に重度な脳卒中患者に対して、神経可塑性を促すための方法を記載します。

上肢に関するレビューですが、以下のレビューを紹介します。

Models to Tailor Brain Stimulation Therapies in Stroke. E.B. Plow,2016

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上肢のリハビリテーションを最大限に促進するために、いくつかの補助的な治療法が提案されている。最も一般的な手法の1つは、運動皮質を刺激することであり、経頭蓋磁気刺激(TMS)や経頭蓋直流刺激(tDCS)などの技術を用いることができる。基本的な前提は,運動皮質を電気的に刺激することで,麻痺した上肢の回復の基盤となる可塑性を高めることができるということである。

しかし、期待されているにもかかわらず、このアプローチの有効性はまちまちであった 。それは、脳卒中患者の神経回復は不均一であることから、一種類の方法論では当然ながら困難である可能性が高い。本報告では、個別化された皮質刺激療法のために患者を層別化するのに役立つ可能性のあるフレームワークとモデルを提案します。

本報告では(1)脳卒中の皮質刺激に対する既存のアプローチは何か?(2)回復をサポートするための代償アプローチは何が考えられるか?(3)個人の回復に最も役立つと思われる代償経路をどのように決定するか?について議論します。

 

1,脳卒中患者の刺激における既存のアプローチとは?

現在のアプローチでは、損傷半球の一次運動野(M1)の可塑性が回復に最も影響を与え、非損傷半球の皮質が同側の可塑性を抑制すると考えられている。したがって、このアプローチでは、損傷半球M1の興奮性を促進し、非損傷半球M1の興奮性を抑制する必要がある。残存しているM1の可塑性が回復を支え、非損傷半球が損傷半球の可塑性を抑制するという前提は、2つの重要な証拠から生まれた。

脳卒中回復のための主要な回復は損傷半球M1である。

非ヒト霊長類モデルを用いて、自然回復と学習に基づくスキルトレーニングの過程で、損傷側M1の領域が再形成されることが示されている(図1)。梗塞によって前肢遠位部を支配する領域のかなりの部分が破壊された後、障害のある遠位前肢を使った熟練作業の訓練を受けると、遠位前肢の残存表現が以前は近位前肢が占めていた領域に拡大していました。このようなM1の周辺領域の急速な変化は,疾患の後遺症を回復させる可能性があり,皮質刺激の標的となる最も人気のある基質となっている。

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図1,前肢遠位部を覆う(黄色)M1の損傷後、トレーニングにより再編成が生じる

Nudo, R. J., Milliken, G. W., Jenkins, W. M., and Merzenich, M. M. (1996a). Use dependent alterations of movement representations in primary motor cortex of adult squirrel monkeys. J. Neurosci. 16, 785–807.

超急性期から慢性期にかけての脳卒中患者は、脳の活性化パターンがどのように変化するかが明らかになり、損傷 M1の重要性が示されました。手の機能が回復してくると、同側のM1に活性化が局在するようになります。しかし、回復が不完全な人は、両側および非損傷側の活性化を示し続けます。これらの研究から、同側部のM1の可塑性を高めることが、回復に大きな影響を与えるというコンセンサスが得られた。

 

○非損傷側の運動皮質の活性化が損傷側の回復を妨げる恐れがある

機能的イメージングの古典的な研究では、不完全な回復を遂げた患者において、対側の運動皮質の活性化が麻痺肢の運動に伴うことが示された。

村瀬らは、非損傷側M1へのTMSを損傷側M1へのTMSの数ミリ秒前にあてると、麻痺筋で誘発された活動が抑制された。抑制効果が大きいほど、麻痺肢の回復が悪くなることがわかった。しかし、これらの対象者は軽度損傷患者や健常者で示されていることがほとんどである。

このように、動物およびヒトの研究から得られたいくつかの証拠が、皮質刺激療法の現在の基準の基礎となっている。現在の基準は、大脳半球間抑制のモデルに基づいています。これは、損傷側M1が最も影響力のある可塑性の中心である一方、その対側が回復に反対するという考えです。したがって、現在の基準では、大脳半球間のバランスを回復させ、損傷側M1の興奮性を高め、非損傷側 M1の興奮性を抑制することで、最大限の回復を目指していることが多い。

しかし、なぜ現在の標準的な刺激では多くの人が恩恵を受けられないのでしょうか。その答えは、大脳半球間抑制モデルの古典的な考え方を逸脱した生理学への影響にあると考えています。

○従来からの半球間抑制に対する考え

比較的軽度な脳卒中患者(発症2-3か月の患者12名)が麻痺種を自由に動かす際、非損傷半球から損傷半球へ抑制性の結合が生じている。また、非損傷半球から損傷半球への抑制が強いほど、麻痺手の運動能力が低下していた。(図3)

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図2,健常成人と脳卒中患者の皮質の結合性の違い。緑の矢印は興奮,赤の矢印は抑制を表す。

(A) 健常成人の安静時における半球内/半球間の機能的結合性。(B) 健常成人における右手の随意運動時の半球内/半球間の機能的結合性。(C) 脳卒中患者(比較的麻痺は軽度な発症2-3か月の患者12名)が右手を自由に動かしているときの半球内/半球間の機能的結合性。(D) 脳卒中患者の一次運動野の大脳半球間抑制と麻痺した手(右手)の運動パフォーマンスの相関。非損傷半球から損傷半球への抑制が強いほど、麻痺手の運動能力が低下していた。

Cortical Connectivity after Subcortical Stroke Assessed with Functional Magnetic Resonance Imaging Christian Grefkes, MD,2008

2,半球間抑制に対する新しい考え

M1は実行運動系に不可欠であると考えられているにもかかわらず、その可塑性の範囲は、軽度の損傷患者にのみ顕著である。一方、M1や皮質脊髄路が損傷した患者では、他の経路が可塑性を発現して回復に寄与することができる。運動皮質領域は、手足の遠位部の動きを生成および制御するために並行して作用することができるため [30]、損傷を受けた場合には、これらの領域が互いに代償する能力を持っていることが考えられます。そのため、標準的な刺激ができない場合、代償領域が新たな回復源となる可能性がある。これらの領域には以下のものがある。

○損傷半球の運動前野が可塑性に重要

可塑性の代償経路としては,運動前野と補足運動皮質(PMCとSMA)のような領域が一般的である。これらの領域は,もともと皮質脊髄路には寄与しないと考えられていましたが、DumとStrick[65]はM1とは別に、これらの領域が手への経路の約40%に寄与していることを示しました。

損傷半球運動前野は、M1とは独立した遠位前肢の制御のための直接的かつ並列的なモジュールを形成している。

これらの領域は、代償の運動出力を提供するだけでなく、その皮質領域は、損傷したM1で典型的に提供される機能を引き受けるようにリマップすることができます。同様に、M1とその皮質脊髄経路に損傷がある重度な患者では損傷半球運動前野でタスク関連のfMRI活性化を示し、損傷の程度に比例して増加することがある(図3,4)。

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図3,赤は手の領域、青は手首の領域であり、特にM1手の領域の損傷が60%以上では運動前野の手の領域が拡大することが動物と人の実験から考えられている

  1. Dancause, “Vicarious function of remote cortex following stroke: recent evidence from human and animal studies,” Neuroscientist, vol. 12, no. 6, pp. 489–499, 2006.

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図4,A.麻痺側M1の皮質脊髄線維の非対称性が大きいほど上肢の運動麻痺は重度である

慢性期(6カ月以上)の脳卒中患者9名が対象、手指手関節の運動麻痺は重度であり、日常生活で麻痺した手を使うことができないことを主訴としました。B-D.麻痺側M1,PMC,SMAの活動が大きいほど上肢運動機能は高く、特にPMCで有意である。E.2人の異なる患者におけるfMRIベースの画像。被験者1(左)はfMRIラテラリティが高く、手の収縮時に同側半球が優位であることを示している。被験者2(右)は、fMRIラテラリティが低く、手の収縮時に同側半球の支配が弱いことを示している。F. 2人の異なる患者のDTIベースの画像。被験者3(左)は、M1のFA非対称性が悪く、同側部から発生する皮質脊髄路の完全性が弱いことを示している。被験者4(右)は、M1 FAの非対称性が良好であり、両半球の神経回路の整合性が同様であることを示している。

Assessment of Inter-Hemispheric Imbalance Using Imaging and Noninvasive Brain Stimulation in Patients With Chronic Stroke David A. Cunningham, MS,2016

○対側運動野の関与

このように損傷が小さく、経路が部分的に温存されている場合には、周辺部のM1やPMCやSMAが、回復を助ける形で再編成されることが可能である。しかし、経路の大部分に影響を及ぼす大きな病変がある場合は、非損傷半球の可塑性に頼る以外に選択肢はない。例えば、ほとんど機能していない患者(上肢Fugl-Meyer=9-12)を対象とした無作為化臨床研究では、12週間のトレーニングによる改善は、同側のM1ではなく、対側の前運動野の活性化と関連していた。(図5)

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図5,重度脳卒中患者の回復に関わる領域

発症後20日前後の重度脳卒中患者を対象に、課題志向的な上肢トレーニングをした群(B)と通常のトレーニングをした群(C)で活性化領域を比較した。上肢トレーニング群は、通常のトレーニングよりも良好な回復を示し、両側の運動前野の活性化が相対的に大きくなっていた。

Arm Training Induced Brain Plasticity in Stroke Studied with Serial Positron Emission Tomography1 G. Nelles,2000

○半球間抑制に対する新たな考え

以上のように、特に重度な患者であれば対側の半球が損傷半球の回復に貢献することが、主に上肢の研究からであるが言われている。

Bestmannらは、両半球へのTMSを用いて、機能障害の少ない患者では、非損傷半球の運動前野と損傷側のM1の間の相互作用は主に抑制性であることを見出し、これは従来の半球間抑制のモデルと一致する。しかし、機能障害の大きい患者では、非損傷半球へTMSをかけると損傷半球への抑制が弱まり、損傷半球 M1からの出力が促進されることさえあった。(図6)

 

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図6,慢性期脳卒中患者10名を対象に、ペアコイルTMSを用いて,非損傷半球PMCが損傷半球のM1に及ぼす大脳半球間の直接的な影響を検証した。良好群(縦軸の上肢機能が高い群)では、非損傷半球PMCへのTMSによりM1からの活動は減少した(半球間抑制が増大)が、不良群(重症群)ではM1からの活動が増大した。

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図7,図6の症例において、麻痺側上肢で握力課題を行った際の活動領域を示す。オレンジが握力課題で上昇した部位であり、不良群ではSMAと両側のPMCの活動の増大を示す。

The Role of Contralesional Dorsal Premotor Cortex after Stroke as Studied with Concurrent TMS-fMRI.Sven Bestmann,2010

これらの考えをまとめると図8のような図になる。従来の考え方では、半球間抑制により非損傷半球は損傷半球の興奮性を低下させるとされていた。しかし、損傷が大きい患者であれば、非損傷半球は損傷半球への抑制を弱める可能性があることが示されている。(正し慢性期での検証が多いことは注意が必要)

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図8,左はM1の損傷が軽度、右はM1の重度損傷症例である。

本文の図

 

3、患者個人の回復にあった経路を決定するには

脳卒中患者の運動機能の回復に関わる領域は様々であることは述べたが、最大の課題は、どの領域・経路が個人の回復を最大化できるかを決定することです。ここでは、刺激療法を個人に合わせて調整する方法を提案されている。

○患者の特徴に基づいて回復を予測するモデル

脳卒中後、誰が回復し誰が回復しないかを予測するには、刺激が最も効果的であると思われる。例えば、TMSで麻痺上肢筋に電位を誘発できた患者では,損傷半球からの経路(特にM1)の興奮性が回復を予測したが,TMSに反応を示さなかった患者では,DTIで捉えた皮質脊髄経路の残存性が回復を予測した(図9)。残存性のレベルが最も悪かった患者(DTIのカットオフ値0.25よりも悪かった)は、非損傷半球から代償経路が運動機能の回復に必要であると考えられた。すなわち、MEPに反応する、あるいは皮質脊髄線維が少しでも残存している患者が同側部のM1を刺激する候補となる。

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図9.麻痺側上肢における個々の回復を予測するための要因を示す。上肢に重度な麻痺を示す慢性期患者に対して、麻痺側および非麻痺側腕橈骨筋へTMSを行い、MEP、拡散テンソルから皮質脊髄線維の差を検出した。その結果、MEPの有無とFA値の差により患者を分類分けすることができた

Functional potential in chronic stroke patients depends on corticospinal tract integrity.Cathy M. Stinear,2007

損傷半球皮質脊髄経路が構造的に存続しているか、あるいは免れている場合、患者は損傷半球M1とその経路をリクルートし、損傷半球M1の標準的な刺激と「抑制的な」非損傷半球M1から恩恵を受けることができる。しかし、損傷半球皮質脊髄経路が大幅に損傷した場合、非損傷半球は抑制的になるのではなく、回復を促すことができる。これを確かめるための刺激として、損傷半球M1や運動前野への刺激と、対側運動前野への刺激を1回ずつ行い、その反応(MEPや運動機能の改善度)から対象とする領域を特定する(図10)。

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図10

本文の図

conclusion

脳卒中リハビリテーションでは、目標とする治療法を導き出すための情報が不足していることが大きな課題となっています。そのため、脳刺激などの効果がまちまちであることがわかっています。ここでは、その理由を説明し、効果のばらつきの主な原因を示しました。また、損傷や障害が大きい患者では、代わりの経路を標的にすることができることを裏付ける証拠を示しています。しかし、脳刺激療法をどのように調整するか、回復のために損傷部位あるいは代償経路のどちらを刺激するのか、患者をどのように層別するかについての情報が不足していることが大きな障害となっている。この目的のために、私たちはさまざまなフレームワークについて議論しています。

--------------------------------------------------------------------------------------------------これらの議論は上肢機能の研究が圧倒的に多く、下肢や歩行機能への研究は少ないです。そのため、これらの知見を下肢や歩行に繋げていく必要があります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パーキンソン病患者の歩行特徴(バイオメカニクスとニューロメカニズム)

今回はパーキンソン病患者の歩行特徴についてです。

以下のレビューを中心に話します。(他の文献からも多数引用しています)

Neural Control of Walking in People with Parkinsonism.D. S. Peterson and F. B. Horak,2016

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introduction

パーキンソン病患者は、歩行速度の低下、歩幅の変動、姿勢制御の低下など、衰弱した歩行障害を示しており、これらの障害は、生活の質の低下、頻繁な転倒と関連している(1,2)。最近では、運動前皮質、運動皮質、基底核、小脳、脳幹の構造を含む広範な脊椎上運動ネットワークが報告されており(3)、これらすべての領域の構造と機能が障害され、これらの病理学的および代償的な変化が、パーキンソン歩行の原因となっている。この総説では、まず、これら3つの主要なパーキンソン病歩行障害の基礎について説明する。次に、パーキンソン病患者の歩行障害の原因として、脊髄上の運動領域の構造と機能がどのように変化しているかを説明します。

1,Bloem BR, van Vugt JP, Beckley DJ. Postural instability and falls in Parkinson’s disease. Adv Neurol 87: 209–223, 2001.

2,Muslimovic D, Post B, Speelman JD, Schmand B,de Haan RJ, Group CS. Determinants of disability and quality of life in mild to moderate Parkinson disease. Neurology 70: 2241–2247, 2008.

3,Jahn K, Deutschlander A, Stephan T, Kalla R,Hufner K, Wagner J, Strupp M, Brandt T. Supraspinal locomotor control in quadrupeds and humans. Prog Brain Res 171: 353–362, 2008.

 

1,パーキンソン病患者の歩行障害(バイオメカニクス的観点から)

PDに伴う歩行障害は、ペース、リズム、変動性、非対称性、姿勢制御の5つの独立した領域から構成されると特徴づけられている(図1B)

このレビューでは、これらの領域を3つの主要な歩行障害に統合しました(図1A,1,歩行の遅さ(ペース、リズム)、2変動性と非対称性の増大、3姿勢制御の不良) 

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図1:パーキンソン病患者と健常者との歩行特徴の違いを示す

パーキンソン病患者は、歩行速度の遅さ、変動性の増大、非対称性性の増大が顕著  SV、ステップ速度、SL、ステップ長、Swi、スイング時間、ST、ステップ時間、Sta、スタンス時間、Wid、ステップ幅、sd、標準偏差(歩行のばらつき)、as、非対称性。

本文の図

・歩行の遅さ

歩行速度低下の主な原因は、1)hypokinesia歩幅の減少)/bradykinesia(ケイデンスの増加)、2)rigity 硬直/過緊張です。

パーキンソン病の歩行は、低運動性(例えば、歩幅や腕振りの減少などの小さな動き)と徐運動性(例えば、歩幅や腕振りの速度の低下などの遅い動き)の両方を示します(4)。しかし、ステップの大きさの減少は、ステップの遅さよりも、歩行の遅さのより一貫した要因である可能性があります(5)。PDでは、ステップの運動学および動力学のほとんどの側面(関節角度、地面反力、腕の振りなど)が低下している(図2)。

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 図2,パーキンソン病患者の歩行時の関節運動 健常者と比べて、体幹・下肢屈曲位であり、運動範囲も狭い

Three-Dimensional Gait Biomechanics in Parkinson’s Disease: Evidence for a Centrally Mediated Amplitude Regulation Disorder Meg Morris,2004

4,Curtze C, Nutt JG, Carlson-Kuhta P, Mancini M,Horak FB. Levodopa is a double-edged sword for balance and gait in people With Parkinson’s d

5, Mori S, Nakajima K, Mori F, Matsuyama K. Integration of multiple motor segments for the elaboration of locomotion: role of the fastigial nucleus of the cerebellum. Prog Brain Res 143:341–351, 2004.

・硬直/固縮

固縮は、PD患者に見られる緊張亢進であり、歩行の遅さの原因となっている可能性が高い。PD患者の股関節、体幹、頸部の緊張は、年齢をマッチさせた対照被験者と比較して、30〜50%上昇していることがわかっています(図3)。

股関節の硬直は、歩幅や歩行速度の主な要因である股関節伸展を妨げるため、歩行速度の低下につながります。PD患者では、歩行速度が正常であっても、方向転換による歩行方向の変更が特に遅くなります。体幹の硬さとねじれに対する抵抗力の増加が、PD患者の方向転換速度の低下に寄与していると考えられる(6)。

また、PD患者は、膝や足首などの四肢の異常な緊張を示しており、過剰な屈筋の緊張亢進は、脊柱の屈曲異常、猫背、下肢関節のトルク低下を引き起こす(7)。この異常な姿勢はまた、重心を足よりも前に押し出し、この集団によく見られる突進現象の原因となる。さらに、足首の屈筋と伸筋の過剰な緊張性筋活動は、共収縮と関節の硬さを増加させる(8)。緊張の高まりは、体の重心移動の速度と範囲を遅らせ、関節を安定させるための代償であるかもしれない。

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図3,パーキンソン病患者の健常者と比べた体幹・股関節回旋筋の筋緊張の比較

左図はパーキンソン病患者のレボドパあり、なし、健常での筋緊張亢進程度。右図は筋緊張の左右差を示す。

Axial hypertonicity in Parkinson's disease: Direct measurements of trunk and hip torque.W.G. Wright ,2007

6,Zampieri C, Salarian A, Carlson-Kuhta P, Aminian K, Nutt JG, Horak FB. The instrumented timed up and go test: potential outcome measure for disease modifying therapies in Parkinson’s disease. J Neurol Neurosurg Psychiatry 81: 171–176, 2010

7,Jacobs JV, Dimitrova DM, Nutt JG, Horak FB.Can stooped posture explain multidirectional postural instability in patients with Parkinson’s disease? Exp Brain Res 166: 78–88, 2005.

8,Horak FB, Dimitrova D, Nutt JG. Direction-specific postural instability in subjects with Parkinson’s disease. Exp Neurol 193: 504–521, 2005.

・歩行の変動性と非対称性の増加

PD患者では、歩幅と歩隔の変動性が上昇します(図1)。歩幅と歩隔の変動は、それぞれ異なる原因があると考えられます。内側-外側面で生じるステップ幅の変動は、歩行中にバランスを維持するために中枢神経系が行う活発なステップ間の調整に関係していることを示しており、歩幅の前後方向の変動は、自分で選択した歩行速度の変動と密接に関連しています。歩行パラメータの時間的・空間的な左右非対称性も、パーキンソン病患者で一貫して観察されている(図1)。さらに、静かな立ち姿勢での左右の足の圧力中心の移動速度として測定される姿勢制御の非対称性も、PD患者では上昇していることが示されています(9)。

9,Geurts AC, Boonstra TA, Voermans NC, Diender MG, Weerdesteyn V, Bloem BR. Assessment of postural asymmetry in mild to moderate Parkinson’s disease. Gait Posture 33: 143–145, 2011

・姿勢制御の低下
PD患者は、立位では姿勢の揺れの面積、速度、揺れが大きく、安定限界が低下する。安定限界は、PD患者では特に後ろ向きの姿勢が損なわれ(10)、抗パーキンソン薬を服用する前のごく初期のPDでも観察される。
実際、PD患者に特徴的な屈曲した柔軟性のない姿勢は、体の重心が前方に位置することになり、おそらく後方への転倒を防ぐためであると考えられる。

また、PD患者は予測的姿勢制御(APA)も障害される。歩行開始時の圧力中心の横方向への移動は、踏み出した足を持ち上げるために必要であるが、PD患者に見られるゆっくりとした小さなAPAは、ステップ開始の遅れやステップ幅の減少と関連している。その結果、すくみ足が出現する(図4)。

また、PDの人は、課題や環境に応じて姿勢を素早く適応させる能力も変化している(11)。Chongらは、予期せぬ外乱が起きた場合、健常者は姿勢筋の活性化パターンを変化させることで、すぐに姿勢反応を適応させることを示しました。しかし、PDの人たちは、課題の条件や文脈の変化に合わせて姿勢反応を変化させることができない。しかし、PD患者は反復することで最終的に歩行とステップのパターンを適応させることができます(12)。

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図4,健常者、パーキンソン病患者のレボドパON,OFF群での開脚・閉脚立位から歩行開始する際のCoPの変化量を示す。開脚立位では、CoPの変化量を大きくする必要があるが、PD患者は不十分

Step initiation in Parkinson’s disease: Influence of initial stance conditions.Laura Rocchi,2006

10,Huxham F, Baker R, Morris ME, Iansek R. Head and trunk rotation during walking turns in Parkinson’s disease. Mov Disord 23: 1391–1397, 2008.

11,Boonsinsukh R, Saengsirisuwan V, Carlson-Kuhta P, Horak FB. A cane improves postural recovery from an unpracticed slip during walking in people with Parkinson disease. Phys Ther 92: 1117–1129, 2012.

2,PDの歩行の遅さとすくみ足の神経学的基礎知識

・直接路と間接路の変化

図5は、PD患者における大脳基底核の病態生理の「レートモデル」を示しています。このモデルでは、黒質部の神経変性により、淡蒼球の外節の抑制が増加し、淡蒼球の内節の抑制が減少します。これにより、内側の淡蒼球が過剰に興奮し、その結果、視床やPPNへの抑制が強まることになる。間接経路の過活動と直接経路の過小活動により、大脳基底核出力構造(GPi)から視床や脳幹への抑制性出力が増加し、最終的に歩行を含む運動の振幅が減少する。

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図5,パーキンソン病患者の直接路、間接路の変化を示す

緑の矢印は興奮性、赤の矢印は抑制性の投射を表す。矢印の太さは投射の相対的な発火率を表し、破線の矢印はSNpcのD1およびD2の線条体へのドーパミン系投射が相対的に減少していることを示す。SNpcは網状黒体、GPeは淡蒼球外節、GPiは淡蒼球内節、STNは視床下核を意味する。

本文の図

基底核からの抑制性の出力により歩行の自動的制御が障害される

基底核の出力の増大は、歩行の自動的制御である中脳歩行誘発野(MLR)や間接的に脊髄CPGの機能を低下させる。また、このような自動的制御の障害により、歩行が随意的な運動へと移行してしまう。

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図6,パーキンソン病患者による皮質-皮質下機能の変化を示す

本文の図

パーキンソン病患者では補足運動野(SMA)の機能が徐々に低下する

発症早期であれば、このような歩行の自動的制御を担う皮質下の機能を補足運動野(SMA)などが代償し、歩行が遅くよりになる。一部の文献でこの代償は、SMA-STN(視床下核)経路であるハイパー直接路が担うとも言われている。

しかし、基底核の出力の変化は、外側視床の過剰な抑制と、被殻と強い接続を持つSMAや一次運動皮質などの興奮の低下を徐々にもたらす(図6)。

SMAは内的な運動制御に関与しており、習慣的運動に重要である(図7)。習慣的運動とは、あまり注意したり考えたりすることなく、素早く自動的に実行される運動であり、点滅する信号に対して自然に進んだり止まったりするような反復的な練習により発達する反応や、目の前に置かれた食べ物に自然と手を伸ばすような反応(報酬)などがある(Schneider and Chein, 2003)。

そのため、SMAの機能低下が生じると歩行はさらに認知的な情報が必要(随意的)となり、遅く小刻みな歩行や、運動制御の障害によりAPAや自動的歩行の障害が生じる可能性がある。

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図7,背外側前頭前野、前頭眼野、補足運動野と基底核の役割

青色はDLPFC(背外側前頭前野)から尾状核への投射であり、実行機能(集中的・持続的な注意、ワーキングメモリ、認知的柔軟性)などに関与し、特定の目標を達成するために必要な動作の順序を意識的に計画するための基礎となる。学習の初期の段階に重要でああり、動きは遅く、一貫性がなく、非効率的です

赤色は前頭眼野から尾状核への連想段階である。OFCとその尾状核への投射が関与し、意思決定のプロセスを制御し(Schultz, 2006)、報酬に基づく運動学習に不可欠である意識的な意志は依然として必要ですが、認知的な活動は徐々に少なくなっていきます。DLPFCが主に尾状核の中央部に投射するのに対し(Haber, 2016)、OFCは腹側線条体の中央部および外側部に投射する

緑色は、自動制御の段階であり、被殻とそのSMAへの投射が行われる。動作の順序は正確で、一貫性があり、効率的で、大部分が自動的に制御されるようになる。(図は単純に物品を運搬する様子を指す)

Basal Ganglia and Beyond: the interplay between motor and cognitive aspects in Parkinson’s disease Rehabilitation. Davide Ferrazzoli,2018

パーキンソン病患者では補足運動野と視床下核の繋がりが変化する

このSMAの機能変化は上記も触れたSTN(ハイパー直接路)との接続を変化させる。

図8で示すようにパーキンソン病患者の中でもすくみ足がない患者であれば、SMAとSTNの接続は増大するが、すくみ足が増大する患者では接続が減少することを示している。このハイパー直接路の障害については文献によっても異なるため、注意は必要。(パーキンソン病患者では過興奮となるいう文献や、SMAの機能低下により抑制されてしまうなど、原因やメカニズムはまだ曖昧)

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図8,健常者とパーキンソン病患者でのSMAとSTNの機能接続の強さの比較

Functional Reorganization of the Locomotor Network in Parkinson Patients with Freezing of Gait.Brett W. Fling,2014

・すくみ足の原因とメカニズム

すくみ足は発作的に起こるが、特定の運動(例:旋回)、認知(例:デュアルタスク)、情動(例:脅威的な状況)、環境(例:狭い出入り口)が引き金となることが多い 。

上述したように、パーキンソン病患者の歩行の随意的な運動制御への移行は、大脳基底核や脳幹の自動経路の機能障害を部分的に補うものであるが、健常人よりも多くの注意を必要とする。通常、多くの注意を要する課題ではSTNを経由するハイパー直接路や間接路が、動作の切り替えや適切な反応の選択のための時間を確保する。しかし、パーキンソン病患者では、定常歩行であっても多くの注意が必要なため、それに障害物回避など認知的な負荷が加わってしまうと、情報を選択するための時間がより必要となる。そのため、過剰にSTNからの出力が増大し大脳基底核からの抑制を強め、すくみ足が生じる可能性がある。さらに、内発的な運動にかかわるSMAの機能が低下してしまうと、動作の切り替えに時間を要するため、容易にすくみ足が出現してしまう可能性がある。

このように、視床下核の過剰興奮がすくみ足の原因となるとは一貫して言われている。

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図9,健常者の歩行とすくみ足歩行の神経メカニズム

左:健常者では大脳基底核出力部からの抑制は減少し、自動的な歩行が賦活される。このとき、視床下核はpreSMAにより抑制されている。

右:パーキンソン病患者では、二重課題など情報量が増大すると、STNが過興奮となり、基底核からの抑制性出力を高めてしまう。また、pSMAの機能障害により、STNとのコミュニケーションがうまくいかなくなると、情報量があまり増大しないような状態でもSTNは容易に興奮状態となり、抑制がさらに増大する。

The role of frontostriatal impairment in freezing of gait in Parkinson's disease.James M. Shine,2013

3,PDの歩行のばらつきと非対称性の神経学的基礎知識

PD患者の歩行のばらつきや非対称性はよく知られていますが、この障害の神経的な背景はよくわかっていません。ある仮説によると、自動歩行から随意的なステップへの代償的な移行により、歩行の変動が大きくなる可能性があります(図6)。

 実際健常者であっても、二重課題歩行が変動性に繋がると言われている。そのため、PDによる歩行の自動制御の障害が、歩行中の変動性の増加につながることをさらに裏付けるものである(13)。

Bostan AC, Dum RP, Strick PL. Cerebellar networks with thecerebral cortex and basal ganglia. Trends Cognitive Sci 17:241–254, 2013.

4,cueingがパーキンソン病患者に有効なメカニズム

PD患者では、SMAの機能が低下しやすいため内的な運動制御が困難である。

対照的に、PDで小脳の活動が増加するのは、SMAを含む他の構造体の活動低下を補おうとしているのかもしれない。花川氏らは、視覚的な手がかりを使うことで、PD患者の歩行が改善され、小脳と外側の運動前野が特に活発になることを示した。小脳によって部分的に制御されている運動前野は、外部からの手がかりによる動作に関係しています(14)。したがって、PD患者では、小脳が外部からの手がかりを用いて歩行を制御し、大脳基底核やSMAを介した内部で生成される運動の低下を補っている可能性がある。実際、cueingは様々歩行パラメーターやすくみ足の改善を報告されている(図10)が、どれも即時的な効果が多く、長期的な効果の報告は少ない(改善する報告もある)。これはおそらく、歩行の制御が目標指向の戦略から、自動的に処理されるように戻ったときに起こると考えられる[15,16]。さらに、患者がどこにいても支援できるような歩行介入として、キューイングを提供することは特に困難である。

そのため、最近では脳への深部刺激が推奨され始めている。(今回は省略)

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図10,cueingの即時効果

Walking Turns in Parkinson's Disease Patients with Freezing of Gait: The Short-term Effects of Different Cueing Strategies. Pei-Hao Chen,2016

14,Samuel M, Ceballos-Baumann AO, Blin J, UemaT, Boecker H, Passingham RE, Brooks DJ.  Evidence for lateral premotor and parietal overactivity in Parkinson’s disease during sequential and bimanual movements. A PET study. Brain 120: 963–976, 1997.

24, de Lima-Pardini AC, Papegaaij S, Cohen RG, Teixeira LA, Smith BA, Horak FB. The interaction of postural and voluntary strategies for stability in Parkinson’s disease. J Neurophysiol 108:1244–1252, 2012.

61, Huxham F, Baker R, Morris ME, Iansek R. Head and trunk rotation during walking turns in Parkinson’s disease. Mov Disord 23: 1391–1397, 2008

 

まとめ

今回パーキンソン病患者の歩行特徴とその神経メカニズムについて述べましたが、特にすくみ足などについてはまだまだ一貫性は乏しい状態です。そのため有効なアプローチも限られており、理解を深める必要があります。

 

脊髄損傷後(CST)の回復には脳の可塑性が関与する

脊髄損傷(SCI)患者の運動機能回復と脳の可塑性との関係についての以下の文献を紹介します。

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Motor Recovery at 6 Months After Admission Is Related to Structural and Functional Reorganization of the Spine and Brain in Patients With Spinal Cord Injury.

Jingming Hou,2016

 

introduction

近年、SCI後の感覚および運動機能の喪失が、ヒトおよび動物の感覚運動皮質の広範な機能的再編成をもたらすという証拠が増えてきた[Moxonら、2014;Nardoneら、2013a]。いくつかの研究は、SCIが脊柱と脳の構造的再編成に寄与することを示している[Freundら[2011];Jurkiewiczら[2006];Lundellら[2011]]。Hendersonら[2011]は、長期SCI後の脳機能再編成は、脳構造の著しい変化と関連していることを示した。しかし、この構造的・機能的再編成がSCIの運動機能回復に寄与するかどうかはまだ不明である。

Moxon KA, Oliviero A, Aguilar J, Foffani G (2014): Cortical reorganization after spinal cord injury: Always for good? Neuroscience 283:78–94.

Nardone R, Holler Y, Brigo F, Seidl M, Christova M, Bergmann J,Golaszewski S, Trinka E (2013a): Functional brain reorganization after spinal cord injury: Systematic review of animal and human studies. Brain Res 1504:58–73.

Freund P, Weiskopf N, Ashburner J, Wolf K, Sutter R, Altmann DR, Friston K, Thompson A, Curt A (2013): MRI investigation of the sensorimotor cortex and the corticospinal tract after acute spinal cord injury: A prospective longitudinal study. Lancet Neurol 12:873–881.

Jurkiewicz MT, Mikulis DJ, McIlroy WE, Fehlings MG, Verrier MC (2007): Sensorimotor cortical plasticity during recovery following spinal cord injury: A longitudinal fMRI study. Neurorehabil Neural Repair 21:527–538.

 

purpose

SCI後の6か月のリハビリテーションにより、運動機能が向上した群(良好群)と向上しなかった群(不良群)で、脳の可塑性にどのような違いがあるかを明らかにすること

 

subjects

損傷高位がC6~T12の脊髄損傷者25名を、10人の機能回復良好群、15人の機能回復不良群(C5~T12損傷)の2群に振り分けた。また、25人の健常者に対しても同計測を行い、3群間での比較を行った。

3群間の情報を図1に示している。6か月のリハビリによりAISが1段階以上向上した被検者を機能回復良好群、改善しなかった被験者を機能回復不良群に振り分けている。

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図1

 

methods

平均して受傷後9週間の時点で、MRIを用いて①脊髄厚②大脳皮質厚③白質結合強度(DTI)④機能的結合性(Functional Connectivity Analysis)を計測した。

3群間で結果を群間比較し、6か月間の運動機能回復率と各測定の結果の相関を算出した。

 

result

①3つのグループの参加者における脊髄断面積の違い

C2レベルの脊髄厚は機能回復不良群のみ有意に低値であった。

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図2,脊髄断面積の測定領域を示すT1強調画像(A) 、健常対照者(B)、回復良好者(C)、回復不良者(D)の脊髄面積。E)健常対照者および良好な回復者と比較して、回復不良者の脊髄面積が萎縮していることを示す

 

②大脳皮質厚(Cortical thickness analysis)

脊髄損傷群は健常群と比較して、M1の皮質の厚さが薄い。しかし、回復良好群では不良群に比べてSMAやPMCが厚く、健常群と比べても差がない

 

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図3,(A) 回復不良者では健常対照者に比べて両側の一次運動野(M1)、右SMAおよび前運動野(PMC)の皮質厚が小さい。(B) 回復不良者では健常者に比べて両側のM1の皮質の厚さが小さい。(C) 右側のSMAおよびPMCの皮質の厚さが小さい

 

③白質結合強度(DTI

M1の下肢領域と、右内包後脚の白質結合強度に有意な違いが見られた

回復良好群のM1の白質は健常群や不良群に比べて厚い
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図4,Aは健常者-回復不良群、Bは回復良好群-健常群、Cは回復良好群-不良群の比較

 

④機能的結合性
機能的結合性は機能回復良好群において健常者よりもM1やSMA、PMCを含む運動ネットワークにおける半球間結合性が高値となった。

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図5,A:健常群と不良群 B:健常群と良好群 C:良好群と不良群

⑤運動機能回復率と各測定結果の相関

A)脊髄断面積、一次運動野(M1)のfractional anisotropy(FA)値、SMAの皮質厚は、運動機能回復率と正の相関があった。B)右SMAと左SMAおよび右M1、右PMCと右M1の間の機能的結合強度は、SCI患者の全員において、運動回復率と正の相関があった。

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図6,(A)脊髄と皮質断面積と運動機能回復率との関係(B)機能的結合強度と運動機能回復率との関係

 

conclusion

今回の研究からわかる重要なことは、脊髄損傷後の回復には脳の可塑性が重要であることと、およびその可塑性には補足運動野と運動前野が関与するということである。

今回、回復良好群ではほとんどの患者が不完全なSCIであったのに対し、回復不良群ではほとんどの患者が完全なSCIであった。私たちの研究では、回復不良者は回復良好者に比べて、脊髄や脳の構造的損傷がより深刻で広範囲に及んでいることがわかりました。脊髄損傷後の脳の構造的障害の正確なメカニズムはまだ不明だが、逆行性変性がこの発見を説明している可能性がある[Guleria et al.]したがって、脊髄と脳の構造的損傷は、SCIの初期段階における運動回復に直接影響すると思われる。

また、この構造的損傷の程度は、すべてのSCI患者の運動機能回復率と関連しており、機能的再編成は、回復不良者は一次運動野と高次二次運動野(SMAおよび前運動野)との機能的連結性が低下していた。また、脳の機能的再編成は、全脊髄損傷患者の運動回復率と正の相関があった。

脳卒中や外傷性脳損傷の患者における主な機能再編成の1つは,十分な運動出力を生成するための一次感覚運動野の能力低下を補うために,追加の運動野(SMAおよび運動前野)を採用することである[Lotze et al;Wangら, 2010]。このような機能的再編成は、運動機能の回復に重要な役割を果たすと考えられており、今回の研究成果では、運動機能の回復が良好な患者と不良な患者では、この2つの領域で異なる機能的再編成パターンが見られた。一次運動野とSMAおよび運動前野との機能的連結性の増加は、運動回復が良好な患者で生じたが、運動回復が不良な患者では生じなかった。したがって、SMAや運動前野との皮質の機能的連結性を高める方法は、脊髄損傷後の回復をさらに促進するために有用である可能性が示唆される。

Guleria S, Gupta RK, Saksena S, Chandra A, Srivastava RN, Husain M, Rathore R, Narayana PA (2008): Retrograde Wallerian degeneration of cranial corticospinal tracts in cervical spinal cord injury patients using diffusion tensor imaging. J Neurosci Res 86:2271–2280.

Wang L, Yu C, Chen H, Qin W, He Y, Fan F, Zhang Y, Wang M, Li K, Zang Y, et al. (2010): Dynamic functional reorganization of the motor execution network after stroke. Brain 133(Pt 4): 1224–1238

 

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今回の結果は、脊髄損傷による皮質脊髄路(CST)の損傷後には脳の可塑性が重要であることがわかる。そのため、SCI患者に対して、脳機能を考慮したアプローチも重要だと言えます。