皮質脊髄路損傷後には、非損傷側の皮質脊髄路や大脳皮質が回復をアシストする

片側のCSTが損傷すると、それと対側の上下肢の運動麻痺が出現します。

このとき、損傷を免れたCSTや大脳皮質が運動麻痺の回復に貢献するといういう考えが広く知られるようになったように思います。

今回は、動物実験ではありますが、この証拠となる以下二つの知見を発信します。

1、Time-Dependent Central Compensatory Mechanisms of Finger Dexterity After Spinal Cord Injury.Yukio Nishimura,2007

 

2、Ipsilesional Motor Cortex Plasticity Participates in Spontaneous Hindlimb Recovery after Lateral Hemisection of the Thoracic Spinal Cord in the Rat

Andrew R. Brown and Marina Martinez,2018

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1、Time-Dependent Central Compensatory Mechanisms of Finger Dexterity After Spinal Cord Injury.Yukio Nishimura,2007

 

subject and method

脊髄のC4とC5の境目にある側方皮質脊髄路(l-CST)に病変が生じた、マカクザル5匹に対して、手指の巧緻課題の成功率の変化とそれに伴う両側大脳皮質の活動領域の変化を調べた。(手指の巧緻課題訓練を併用しながら)

 

result

a,成功率の経過

3週間以内に病変前の80%以上まで回復していることがわかった。

そして、99日までには損傷前と同様の機能を回復させることができた。

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b,活動領域の変化

損傷初期(ealry)は、損傷後1-45日間、損傷後期(late)は、90-143日間を示す。

回復初期には、麻痺肢の運動に対して、両側一次運動野(M1)で活動が増加していた。さらに、両側の初期視覚野、対側のS2、麻痺肢とは対側の後脳、小脳皮質の虫部でも活動が増加した。

回復後期には、麻痺肢と対側のM1と同側の運動前野で活性化の増加が観察された。両側の島皮質、小脳中部の活動も増加しています。

 

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conclusion

CST損傷後の手指巧緻機能回復は、初期の3週間で大きな回復が起き、この回復段階では両側の運動野が関与している。また、回復後期(3ヶ月以上)には対側の運動野に移行することが明らかになった。

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2、Ipsilesional Motor Cortex Plasticity Participates in Spontaneous Hindlimb Recovery after Lateral Hemisection of the Thoracic Spinal Cord in the Rat.

Andrew R. Brown and Marina Martinez,2018

 

purpose and subject

胸部半球切除によるCST切断により後肢運動が障害されたラットに対して、損傷を免れたCSTおよび大脳皮質が後肢運動の回復に与える影響を検証した。

 

method

a,胸部半球切除により、損傷と対側の大脳皮質からのCSTが切断される。このとき、損傷と同側の大脳皮質からのCSTは保たれている。そこで、同側の大脳皮質運動野へ電気刺激を与え、その際に誘発される後肢運動を損傷3週間後と5週間後に観察した。

(リハビリテーションの併用なし)

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b,次に、胸部半球切除後の別のラットを対象に、損傷と同側大脳皮質(左)あるいは対側大脳皮質(右)を不活性化させた後の、後肢運動の回復を1週間ごとに観察した。

(リハビリテーションの併用なし)

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result

a,脳刺激による運動の変化

脊髄損傷3週間後、対側の運動野からは障害された下肢の運動は誘発されない。

しかし、損傷同側の運動野からは両下肢の運動が誘発されるようになる。

損傷5週間後においても、対側の運動野からは障害された下肢の運動は誘発されない。

また、損傷同側の運動野から両下肢の運動は誘発されず、限局する。

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b,大脳皮質不活性化後の後肢運動パフォーマンスの変化

赤色のグラフが同側の運動野、青色のグラフが対側の運動野を不活性化させたときを示しており、グラフの縦が損傷後肢の失敗率を示している。

損傷3週間後には同側運動野を不活性化させた群において、失敗が増大する。また、不活性化させない群と対側を不活性化させた群で失敗率に変化がないことは、先ほどの脳刺激の結果同様、同側運動野の活性化が損傷後肢のパフォーマンスの増大に繋がっていると考えられる。興味深いことは、初期でパフォーマンスが最も悪かった同側運動野の不活性化群で失敗が大きく改善したことである。このことは、損傷3週間後の早期では同側の運動野が回復に関与するが、損傷5週間後には異なる可塑的変化が起きた可能性が考えられる。

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conclusion

一つ目に提示した文献と同様に、損傷3週間後には同側の運動野(CST)が回復をアシストするという結果となった。

実験aにおいて、損傷5週間後において、対側運動野の刺激では損傷した下肢の運動が誘発されなかったのに対して、実験bにおいて、同側運動野の不活性化群で失敗が少なくなった。この双方の結果を踏まえると、対側運動野の活動が下肢の運動パフォーマンスを向上させたとは言い難いが、脊髄や脳幹等の皮質下層の運動回路におけるシナプス結合が連絡の途絶えたCSTの回復をアシストした可能性があると示唆している。

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まとめ

以上のような知見から損傷の免れたCSTや大脳皮質が回復をアシストすると言えます。

初期は損傷を免れたCSTや大脳皮質による代償的な回復のアシストにより、損傷した上下肢のパフォーマンスはある程度回復すると言えます。しかし、如何にその後、損傷側へと可塑的変化をシフトさせることができるのかが(残存機能を引き出す)、それ以降のパフォーマンスの向上を左右させると考えています。また、その損傷側の可塑的変化やパフォーマンスの改善を起こすためには、リハビリテーションを追求するしかないと考えています。

今回は脊髄損傷の知見ですが、脳卒中後にも損傷とは対側の運動野が可塑性に関与しています。