皮質脊髄路(CST)損傷後の可塑的変化は、運動機能を必ずしも回復するとは限りません

脳卒中や、脊髄損傷により皮質脊髄路(CST)が障害された際には、様々な神経線維が回復をアシストします。(非損傷側のCSTや感覚運動野、両側の脳幹からの下行路など)

しかし、その可塑的変化は、運動機能を必ずしも回復するとは限りません。反対に悪化させるときもあります。

今回はそのような以下の論文を紹介します。

Overexpression of Sox11 Promotes Corticospinal Tract Regeneration after Spinal Injury While Interfering with Functional Recovery. Zimei Wang,2015

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Overexpression of Sox11 Promotes Corticospinal Tract Regeneration after Spinal Injury While Interfering with Functional Recovery. Zimei Wang,2015

 

background

哺乳類のCNSにおける軸索損傷からの回復は、多くのニューロンが効果的な再生反応を行うことが本質的にできないために制約を受けている。

そこで、Sox11という転写活性化因子は、軸索の成長を促進させるタンパク質である。無脊椎動物では軸索切断に応答して、このSox11を急速に成長させることが可能であることから、軸索の再生を容易に起こすことができると言わている。

 

subject and purpose

CST損傷後のマウスにSox11を注入することで、CST線維の発芽や再生を促進させることができるかを検証する。

また、強制的な再生が運動機能を向上させることができるかを検証する。

 

method

実験①

マウスの右片側のC4からC5への脊髄連絡路を完全に損傷させ、左大脳皮質-右脊髄へのCSTを途絶えさせた。次に、右感覚運動野にsox11を注入し、非損傷CSTが損傷したCSTへ可塑的変化を起こすかを観察した。 

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実験②

可塑的変化とそれに伴う運動機能の関係を観察する。

課題としては、運動機能が低下した右前肢で餌をとる、ラダー上でのステップを行った。

 

result

実験①

図1:非損傷側へのSox11注入により、非損傷側だけでなく損傷側脊髄へのCST線維量が増大する。これは、非損傷側のCSTが損傷側へ側芽線維を増やしていることを示す。

図2:非損傷側へのSox11注入により、損傷部位以下のCST線維量が増大する。また、それは、損傷部位を迂回するものがほとんであった。

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図1:C4レベルでのCST線維量を示している

A,EBSPはコントロール群 B,Sox11注入群 C,皮質脊髄線維の密度

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図2:C4レベルでのCST線維量を示している

D,C5以下のCSTが途絶えている E,C5以下へのCST線維量の増加を示す

 

実験②

餌をとる課題(A,B)では、コントロール群(EBFP)とSox11注入群で成功率に差は認めなかった。

ラダー上でのステップ課題(C,D)においては、むしろSox11注入群で成功率が低かった。また、2回目の注入後ではさらに低下した。

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図3:餌をとる課題(A,B)、ラダー上でのステップ課題(C,D)

 

conclusion

Sox11を強制的に発現させることで、CNSの軸索成長を促進するのに十分であることがわかった。

本研究で得られた印象的な発見は、Sox11の過剰発現がCST軸索の成長を促進する一方で、前肢の器用さを低下させていることである。

これは、運動機能を回復させるために必要なターゲティングが行われなかった可能性がある。

このことから、損傷後の軸索の再生や芽生えを促進することは依然として主要な目標であるが、ターゲティングの誤りによって不適応となる可能性があることを示している。

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まとめ

このように、CST損傷後には様々な可塑的変化が起きますが、必要な機能が逆に阻害や増悪したりするような不適応 な変化を示すこともあります。

これらの現象 にも再編した神経回路が影響している可能性が高く、その場合には、機能の発揮に不適切な接続の形成が根幹にある と考えられています。つまり、可塑性はどのような方向へも機能を変容させる力をもつわけです。(※1,詳しく書いてます)

従来から、部分的な体重支持を伴う歩行訓練やロボットの使用、rTMS、経頭蓋直流刺激、運動技能訓練などCSTの興奮性の増大と運動機能を上げるようなリハビリテーションが報告されています。(※2)

可塑性は、必ずしも重要な要素ですが、よりよく運動機能を回復させるためには、

適切なリハビリテーションが重要かと考えています。

※1Rewiring of neural circuits and functional recovery following brain and spinal cord injuries.Masaki Ueno,2017

 ※2Involvement of the corticospinal tract in the control of human gait. Dorothy Barthélemy,2011