大脳皮質(皮質脊髄路)と歩行
今回は、大脳皮質(皮質脊髄路)と歩行についてです。
以前より、人や動物が平地で快適な速度で歩行する際には、主に脳幹と脊髄のメカニズムによって媒介されているとされており(※1)、大脳皮質は歩行開始や障害物への対処などのみに関与しているともされていました(※2)。
しかし、最近は定常歩行時においても大脳皮質は重要であると注目されてきています。
そのような論文をご紹介します。
Cortical Correlates of Locomotor Muscle Synergy Activation in Humans: An Electroencephalographic Decoding Study.Yokoyama H, iScience. 2019 May 31;15:623-639.
--------------------------------------------------------------------------------------------------
Cortical Correlates of Locomotor Muscle Synergy Activation in Humans: An Electroencephalographic Decoding Study.
Yokoyama H, iScience. 2019 May 31;15:623-639.
background
歩行時の下肢筋活動は、筋シナジーと呼ばれる少数の筋活動のグループから生成されることが示唆されており、シナジーは脊髄回路に構造化されていると考えられていた(※3)。しかし、四足歩行動物とは異なり、ヒトの二足歩行は、定常状態での歩行中でも有意な皮質活動が特徴であるとも報告されている(※4)。
最近の研究では、歩行時の皮質活動と筋活動の間に強い関係があることを示唆しているが、皮質活動がどの程度のレベルで筋活動と関連しているのか(筋相乗効果や個々の筋肉での)は不明である。
methods and purpose
健常人12名がトレッドミル上を歩行した時の(0.55m/s)、脳波信号から筋シナジー活動と個々の筋活動を解読し、歩行時の筋活動に大脳皮質がどのように関与しているかを検討する。
result
①歩行時の脳波と筋シナジー活動、あるいは脳波と個々の筋活動との関係
個々の筋活動の中でもばらつきはあるが、全体でみると筋シナジーの方が相関が高い。
このことは、脳活動は単一筋活動に比べ筋シナジー活動との関連性が高いことを意味している。
図1:A,左が筋シナジー活動と脳波、右が個々の筋活動と脳波 B:歩行時の脳波が、筋シナジー活動と個々の筋活動とどちらの方が相関が強いか
②筋シナジー活動と単一筋活動の脳内表象
単一筋活動の脳内表象と筋シナジーの脳内表象はかなり相関している。この結果は、
ヒトの脚には多くの筋が存在するが、筋一個一個 を個別に制御するのではなく、筋シナジーという協働筋活動のレベルで脳が筋制御に関わることを 強く示唆している。
図2:C,それぞれの筋活動から得られた脳波を組みあわせた図(左,筋シナジー)、一つの筋活動から得られた脳波(右)
③筋シナジー活性化はどこの皮質の活動と関係しているのか
歩行時の下肢の筋活動は両側の皮質の脳波信号と関連していると考えられる。空間的に広い機能的ネットワークが、本研究における筋シナジー活性化の解読に寄与した可能性がある。
図3:C,Dは皮質の領域を示している、特に中間部は運動野が多数存在する。
conclusion
従来、大脳皮質を取り除かれた四足動物でも歩行動作を行うことができること、私たちヒトは意識せずとも歩けることなどから、歩行の制御に脳はあまり重要でないと考えられてきたが、本研究の結果はヒトの歩行制御において脳が不可欠な役割を担うことを強く示唆するものである。
本研究では、神経解読技術を用いて、筋シナジーの活性化が皮質活動から解読できること、筋シナジーの解読精度が個々の筋の解読精度よりも高いことを示した。さらに、個々の筋活動の解読は、筋シナジーに関連した皮質情報に基づいていることを示した。
これらの結果は、筋シナジー活性化の大脳皮質相関を示しており、大脳皮質が筋シナジーを介した運動筋活動の階層的制御に関与している可能性を示唆している。
これらの知見は、歩行時の脳活動と筋シナジーの関係についての理解を深めるものである。
--------------------------------------------------------------------------------------------------
まとめ
歩行時の下肢の筋シナジーが、皮質脊髄路や皮質網様体路などのどの経路が一番関与しているのかはわかりませんが、定常歩行時の大脳皮質と下肢の筋活動の関係が重要視されるようになってきました。このことから、やはり歩行においても大脳皮質は重要であると言えます。
reference
※1http://Involvement of the corticospinal tract in the control of human gait Dorothy Barthélemy,2011
※3http://Human spinal locomotor control is based on flexibly organized burst generators.
歩行は自動化が大切ですが、皮質の関与はやはり疎かにできないですね。
— 大西 空 (@OnishiSora0024) 2021年2月7日
大脳皮質(皮質脊髄路)と歩行 - ptrehabroのブログ https://t.co/VtQJS91h0I