脳損傷後(大脳皮質や皮質脊髄路)の可塑性 レビュー

今回は、基礎研究を下にした大脳皮質や皮質脊髄路(CST)損傷後の可塑性についてのレビューを紹介します。

以下の文献の図のみを抜粋して説明していきます。

Recovery after brain injury: mechanisms and principles.

Randolph J. Nudo,2013

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Recovery after brain injury: mechanisms and principles.

Randolph J. Nudo,2013

・本レビューの目的

運動経験や傷害によって引き起こされる神経生理学的および神経解剖学的変化、およびこれらのプロセスの相互作用を実証した研究をレビューすること。

損傷を受けた脳で起こる出来事について新たな視点を提供すること。

 

①大脳皮質の運動地図は、複数の重複した運動表現が含まれている

マウスの前肢遠位部の運動表現は手、手首、前腕の運動およびその組み合わせで構成されている。このような運動表現のパターンは、様々な運動ニューロンに投射する皮質脊髄ニューロンが混在しているためである

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図1:手指の領域(赤)、手関節領域(緑)、手指と手関節を組みあわせた領域(黄)

Milliken, G. W., Plautz, E. J., and Nudo, R. J. (2013). Distal forelimb representations in primary motor cortex are redistributed after forelimb restriction: a longitudinal study in adult squirrel monkeys. J. Neurophysiol. 109, 1268–1282. doi: 10.1152/jn.00044.2012

②隣接する領域の神経連絡は、もともと有していない運動を獲得する

サルに対して、人為的に手関節屈筋と伸筋を支配する運動皮質を連絡させる(左図)と、本来屈筋を支配していた領域を刺激すると伸展運動が起きるようになる(右図)。

このように皮質の連絡により、もともと有していない機能を獲得できることに加えて、もともと有していた機能は残っていることを示している。

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図2:左は手首屈筋と伸筋を支配する運動皮質を連絡させた様子

右はそれぞれの領域に対して刺激を与えた際の屈筋、伸筋の筋活動

Jackson, A., Mavoori, J., and Fetz, E. E. (2006). Long-term motor cortex plasticity induced by an electronic neural implant. Nature 444, 56–60. doi: 10.1038/nature05226

③運動技能の学習と運動地図の可塑性

手指の巧緻課題を反復訓練したサルは、訓練前のマップと比較して、手の表現が増加し、それに対応して手首と肩の表現が減少する。

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図3:A,訓練前 B,訓練後 C,訓練の様子

Nudo, R. J., Milliken, G. W., Jenkins, W. M., and Merzenich, M. M. (1996a). Use-dependent alterations of movement representations in primary motor cortex of adult squirrel monkeys. J. Neurosci. 16, 785–807.

 ④正しい運動学習は、代償による課題の反復では生じない

ラットのリーチ課題において、手指や手首を使用してリーチする群に比べて、体幹や肩の代償によってリーチする群では、手・手首の領域が縮小し肩の領域が拡大する。

運動野の可塑性は、厳密には用途に依存するのではなく、スキルや学習に依存していると言える。(質が大事)

 

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図4:A(手指を使用).B(体幹で代償),手は赤、手首は緑、肘肩は水色 

C,A,Bの手指、手関節、肩関節の領域面積

Kleim, J. A., Barbay, S., Cooper, N. R., Hogg, T. M., Reidel, C. N., Remple, M. S., et al. (2002a). Motor learning-dependent synaptogenesis is localized to functionally reorganized motor cortex. Neurobiol. Learn. Mem. 77, 63–77. doi: 10.1006/nlme.2000.4004

⑤自然回復では、代償的な運動パターンを誘発する

サルの脊髄損傷後、リハビリを行わなくても運動スキルは回復する。しかし、手の表象は減少し、近位の表象は拡大していた。このように、少なくとも行動再訓練が行われていない場合には、自然発生的に生じた運動領域の可塑性は、元の運動パターンの真の回復ではなく、代償的な運動パターンの発達を主に反映している可能性がある。

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図5:B,損傷後に赤丸で示す運動機能は減少するが、徐々に回復

C:手指と肩の領域の面積

Nishibe, M., Barbay, S., Guggenmos, D., and Nudo, R. J. (2010). Reorganization of motor cortex after controlled cortical impact in rats and implications for functional recovery. J. Neurotrauma 27, 2221–2232. doi: 10.1089/neu.2010.1456

⑥局所損傷後の隣接無傷運動野の可塑性

マウスの局所梗塞後の前肢と後肢体性感覚野の機能マップの変化

局所梗塞後数時間以内に、前肢と後肢の両方の刺激に反応する部位が出現する。

その後数週間の間に、両方の刺激に反応する部位が拡大。

4-8週には以前は後肢の刺激に反応していた神経細胞が、前肢の刺激に反応するようになる。

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図6:損傷後の回復の経過

Murphy, T. H., and Corbett, D. (2009). Plasticity during stroke recovery: from synapse to behaviour. Nat. Rev. Neurosci. 10, 861–872. doi: 10.1038/nrn2735

⑦M1の局所損傷後の可塑性

健康なリスザルでは、一次運動野(M1)は、一次体性感覚野(S1)、二次体性感覚野(S2)、補足運動野・運動前野(PMv、PMd、SMA)と密な相互接続を持っています。虚血性脳梗塞から数週間後、PMv(運動前野)を起点とする軸索が鋭く屈曲し、梗塞領域を避けているのが見られる。

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図7:A,健康なリスざるのM1との接続 C,M1損傷後にはPMvとの接続が増強

Dancause, N., Barbay, S., Frost, S. B., Plautz, E. J., Chen, D., Zoubina, E. V., et al. (2005). Extensive cortical rewiring after brain injury. J. Neurosci. 25, 10167–10179. doi: 10.1523/JNEUROSCI.3256-05.2005

⑧不使用による脳の可塑性

健康なリスザルの前肢をギプスで最長5ヶ月間固定した。手の表現が徐々に減少し、手首前腕の表現が徐々に増加することが示された。これらの効果はギプスを除去すると可逆的であった。これらの研究は、脳卒中や外傷に伴う傷害誘発性の廃用や神経病理学的変化とは無関係に、廃用による不使用が運動皮質の表象にかなりの影響を与えることを示している

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図8:固定により徐々に手指の領域は縮小

Milliken, G. W., Plautz, E. J., and Nudo, R. J. (2013). Distal forelimb representations in primary motor cortex are redistributed after forelimb restriction: a longitudinal study in adult squirrel monkeys. J. Neurophysiol. 109, 1268–1282. doi: 10.1152/jn.00044.2012

Recovery after brain injury: mechanisms and principles. Randolph J. Nudo,2013

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基礎研究ベースの内容ですが、わかりやすく、脳損傷後や訓練による可塑性がまとめられておりました。

脳損傷後、隣接領域からの代償によりどう元の機能に近づけていくか、またそのためにはどのようなアプローチが有効か、考えていく必要があります。