脳卒中後の脊髄ショックから痙縮発生まで
今回は、脳損傷後の弛緩性麻痺(脊髄ショック)から痙性麻痺までの病理についてです。
以下の3つのレビューから述べていきます。
A literature review of the pathophysiology and onset of post-stroke spasticity Anthony . Ward,2011
Pathophysiology of Spasticity: Implications for Neurorehabilitation.Carlo Trompetto,2014
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各文献の共通の目的
脳卒中後の痙性発症の病態生理を明らかにすること
結果
①脳卒中急性期における脊髄ショックの出現
脊髄ショックを引き起こすさまざまな経路の相対的な重要性はよくわかっていないが、下等動物では、重要な下行性の影響は網様体脊髄路と前庭脊髄路であると思われ、人間を含む高等動物では、おそらく皮質脊髄路の接続がより重要であると考えられる(1)。
脊髄ショックは、皮質脊髄路、前庭脊髄路、網様体脊髄路からの脊髄介在ニューロンおよび運動ニューロンの正常な促進および抑制が失われることによって起こる(2,3)。
そのため、運動皮質の損傷は皮質脊髄線維を介した機能乖離である可能性が高い。(図1)
図1,急激な皮質の損傷はそれと繋がりのある部位の低下を引き起こす(機能乖離)
Shock, diaschisis and von Monakow.Eliasz Engelhardt,2013
②痙縮の発生の原理(上位運動ニューロン障害から)
脊髄反射活動のための感覚インパルスの抑制は、背側網様体脊髄路を介して行われるとされている(4,5)。また、反射活動の促進は内側網様体脊髄路および前庭脊髄路によって調整されている。背側網様体脊髄路のみが皮質の制御下にあるため(皮質網様体路)、大脳皮質の損傷は反射の亢進を引き起こす(図2)。そして、皮質網様体路は補足運動野や運動前野からの投射が多い繊維であるため、補足運動野や運動前野の障害が痙縮との関係が強いとされている(図3)。
また、錐体線維の限局した病変は、弛緩性麻痺は示すが痙縮は観察されにくいとされている(6)。
図2,伸張反射回路を調節する下行性経路の模式図
Pathophysiology of Spasticity: Implications for Neurorehabilitation.Carlo Trompetto,2014
図3,皮質網様体路の部位
Corticoreticular pathway in the human brain: Diffusion tensor tractography study Sang Seok Yeo,2012
③痙縮は拘縮の原因ではなく、拘縮が痙縮の原因である
痙縮には、上位運動ニューロンの障害だけでなく、不動や短縮位での固定による筋のコンプライアンスの低下が筋紡錘の反応性を増大させ、最終的に痙縮を増悪させる(7,8)。
図4
Ward AB, et al. A literature review of the pathophysiology and onset of post-stroke spasticity. Eur J Neurol. 2012 Jan;19(1):21-7.
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まとめ
脳損傷後の機能乖離により脊髄ショック(弛緩性麻痺)を引き起こし、数時間-数週間後には脊髄の機能は可塑的に回復することが多いとされています。
そして、大脳皮質から脊髄への抑制の障害が脊髄の過興奮を引き起こすとされています。また、痙縮には不動や不使用が強く関与します。
しかし、依然として脊髄ショックや痙縮には、不明瞭な点は多い印象です。
1,Bach-y-Rita P, Illis LS. Spinal shock: possible role of receptor plasticity and non synaptic transmission. Paraplegia. 1993;31:82–87.
2,Barnes CD, Schadt JC. Release of function in the spinal cord. Prog Neurobiol. 1979;12:1–13.
3,Mendell LM. Physiological aspects of synaptic plasticity: the Ia/motoneuron connection as a model. Adv Neurol. 1988;47:337–360.
4,Ivanhoe CB, Reistetter TA. Spasticity: the misunderstood part of the upper motor neuron syndrome. Am J Phys Med Rehabil 2004; 83: S3–S9.
5,Sheean G. The pathophysiology of spasticity. Eur J Neurol 2002; 9(Suppl. 1): 3–9.
6,Individuals – Sherman et al. (2000)
7,Gracies JM : Pathophysiology of spastic paresis 2005
8,pasticity mechanisms - for the clinician Mukherjee A, 2010