脊髄損傷後(CST)の回復には脳の可塑性が関与する

脊髄損傷(SCI)患者の運動機能回復と脳の可塑性との関係についての以下の文献を紹介します。

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Motor Recovery at 6 Months After Admission Is Related to Structural and Functional Reorganization of the Spine and Brain in Patients With Spinal Cord Injury.

Jingming Hou,2016

 

introduction

近年、SCI後の感覚および運動機能の喪失が、ヒトおよび動物の感覚運動皮質の広範な機能的再編成をもたらすという証拠が増えてきた[Moxonら、2014;Nardoneら、2013a]。いくつかの研究は、SCIが脊柱と脳の構造的再編成に寄与することを示している[Freundら[2011];Jurkiewiczら[2006];Lundellら[2011]]。Hendersonら[2011]は、長期SCI後の脳機能再編成は、脳構造の著しい変化と関連していることを示した。しかし、この構造的・機能的再編成がSCIの運動機能回復に寄与するかどうかはまだ不明である。

Moxon KA, Oliviero A, Aguilar J, Foffani G (2014): Cortical reorganization after spinal cord injury: Always for good? Neuroscience 283:78–94.

Nardone R, Holler Y, Brigo F, Seidl M, Christova M, Bergmann J,Golaszewski S, Trinka E (2013a): Functional brain reorganization after spinal cord injury: Systematic review of animal and human studies. Brain Res 1504:58–73.

Freund P, Weiskopf N, Ashburner J, Wolf K, Sutter R, Altmann DR, Friston K, Thompson A, Curt A (2013): MRI investigation of the sensorimotor cortex and the corticospinal tract after acute spinal cord injury: A prospective longitudinal study. Lancet Neurol 12:873–881.

Jurkiewicz MT, Mikulis DJ, McIlroy WE, Fehlings MG, Verrier MC (2007): Sensorimotor cortical plasticity during recovery following spinal cord injury: A longitudinal fMRI study. Neurorehabil Neural Repair 21:527–538.

 

purpose

SCI後の6か月のリハビリテーションにより、運動機能が向上した群(良好群)と向上しなかった群(不良群)で、脳の可塑性にどのような違いがあるかを明らかにすること

 

subjects

損傷高位がC6~T12の脊髄損傷者25名を、10人の機能回復良好群、15人の機能回復不良群(C5~T12損傷)の2群に振り分けた。また、25人の健常者に対しても同計測を行い、3群間での比較を行った。

3群間の情報を図1に示している。6か月のリハビリによりAISが1段階以上向上した被検者を機能回復良好群、改善しなかった被験者を機能回復不良群に振り分けている。

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図1

 

methods

平均して受傷後9週間の時点で、MRIを用いて①脊髄厚②大脳皮質厚③白質結合強度(DTI)④機能的結合性(Functional Connectivity Analysis)を計測した。

3群間で結果を群間比較し、6か月間の運動機能回復率と各測定の結果の相関を算出した。

 

result

①3つのグループの参加者における脊髄断面積の違い

C2レベルの脊髄厚は機能回復不良群のみ有意に低値であった。

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図2,脊髄断面積の測定領域を示すT1強調画像(A) 、健常対照者(B)、回復良好者(C)、回復不良者(D)の脊髄面積。E)健常対照者および良好な回復者と比較して、回復不良者の脊髄面積が萎縮していることを示す

 

②大脳皮質厚(Cortical thickness analysis)

脊髄損傷群は健常群と比較して、M1の皮質の厚さが薄い。しかし、回復良好群では不良群に比べてSMAやPMCが厚く、健常群と比べても差がない

 

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図3,(A) 回復不良者では健常対照者に比べて両側の一次運動野(M1)、右SMAおよび前運動野(PMC)の皮質厚が小さい。(B) 回復不良者では健常者に比べて両側のM1の皮質の厚さが小さい。(C) 右側のSMAおよびPMCの皮質の厚さが小さい

 

③白質結合強度(DTI

M1の下肢領域と、右内包後脚の白質結合強度に有意な違いが見られた

回復良好群のM1の白質は健常群や不良群に比べて厚い
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図4,Aは健常者-回復不良群、Bは回復良好群-健常群、Cは回復良好群-不良群の比較

 

④機能的結合性
機能的結合性は機能回復良好群において健常者よりもM1やSMA、PMCを含む運動ネットワークにおける半球間結合性が高値となった。

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図5,A:健常群と不良群 B:健常群と良好群 C:良好群と不良群

⑤運動機能回復率と各測定結果の相関

A)脊髄断面積、一次運動野(M1)のfractional anisotropy(FA)値、SMAの皮質厚は、運動機能回復率と正の相関があった。B)右SMAと左SMAおよび右M1、右PMCと右M1の間の機能的結合強度は、SCI患者の全員において、運動回復率と正の相関があった。

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図6,(A)脊髄と皮質断面積と運動機能回復率との関係(B)機能的結合強度と運動機能回復率との関係

 

conclusion

今回の研究からわかる重要なことは、脊髄損傷後の回復には脳の可塑性が重要であることと、およびその可塑性には補足運動野と運動前野が関与するということである。

今回、回復良好群ではほとんどの患者が不完全なSCIであったのに対し、回復不良群ではほとんどの患者が完全なSCIであった。私たちの研究では、回復不良者は回復良好者に比べて、脊髄や脳の構造的損傷がより深刻で広範囲に及んでいることがわかりました。脊髄損傷後の脳の構造的障害の正確なメカニズムはまだ不明だが、逆行性変性がこの発見を説明している可能性がある[Guleria et al.]したがって、脊髄と脳の構造的損傷は、SCIの初期段階における運動回復に直接影響すると思われる。

また、この構造的損傷の程度は、すべてのSCI患者の運動機能回復率と関連しており、機能的再編成は、回復不良者は一次運動野と高次二次運動野(SMAおよび前運動野)との機能的連結性が低下していた。また、脳の機能的再編成は、全脊髄損傷患者の運動回復率と正の相関があった。

脳卒中や外傷性脳損傷の患者における主な機能再編成の1つは,十分な運動出力を生成するための一次感覚運動野の能力低下を補うために,追加の運動野(SMAおよび運動前野)を採用することである[Lotze et al;Wangら, 2010]。このような機能的再編成は、運動機能の回復に重要な役割を果たすと考えられており、今回の研究成果では、運動機能の回復が良好な患者と不良な患者では、この2つの領域で異なる機能的再編成パターンが見られた。一次運動野とSMAおよび運動前野との機能的連結性の増加は、運動回復が良好な患者で生じたが、運動回復が不良な患者では生じなかった。したがって、SMAや運動前野との皮質の機能的連結性を高める方法は、脊髄損傷後の回復をさらに促進するために有用である可能性が示唆される。

Guleria S, Gupta RK, Saksena S, Chandra A, Srivastava RN, Husain M, Rathore R, Narayana PA (2008): Retrograde Wallerian degeneration of cranial corticospinal tracts in cervical spinal cord injury patients using diffusion tensor imaging. J Neurosci Res 86:2271–2280.

Wang L, Yu C, Chen H, Qin W, He Y, Fan F, Zhang Y, Wang M, Li K, Zang Y, et al. (2010): Dynamic functional reorganization of the motor execution network after stroke. Brain 133(Pt 4): 1224–1238

 

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今回の結果は、脊髄損傷による皮質脊髄路(CST)の損傷後には脳の可塑性が重要であることがわかる。そのため、SCI患者に対して、脳機能を考慮したアプローチも重要だと言えます。