皮質脊髄路の興奮性と歩行回復の関係

本日は、「皮質脊髄路の興奮性が歩行回復にどのように影響するか」について、

スライドを提示しながらお話していきます。

--------------------------------------------------------------------------------------------------f:id:onishisora23:20210920234518p:plain

①健常人の定常歩行時における皮質脊髄路の関与

以下の論文は、健常人を対象に、定常歩行時における脳波の活動と下肢筋活動(内側広筋、大腿二頭筋、前脛骨筋)がどの程度接続性が強いか検証したものになります。

結果、非運動皮質は運動皮質に比べて、各下肢筋活動と接続性があることがわかった。

また、特に遊脚期における大腿二頭筋と前脛骨筋において強い接続性がみられた

このことより、大脳皮質は定常歩行時においても下肢筋の制御に関与していることがわかる。

f:id:onishisora23:20210920234538p:plain

皮質脊髄路の興奮性が歩行回復に与える影響

上の論文は、介助下でも歩行不能な急性期の脳卒中患者を対象に、損傷半球一次運動野にTMSをした際の麻痺側前脛骨筋におけるMEPの有無が、6か月後の下肢機能と歩行能力にどのような影響を与えるか検証している。

結果、急性期の段階で前脛骨筋のMEPが出現する群においては、しない群に比べて下肢機能、歩行能力が優位に回復していた。

下の論文は、慢性期の脳卒中患者を対象に、損傷半球一次運動野にTMSをした際の麻痺側内側広筋におけるMEPの大きさが、運動麻痺と歩行能力にどのような影響を与えるか検証した。

結果、MEPが大きい患者ほど、運動麻痺が軽度であり、歩行速度が速かった。(詳細に述べると、損傷半球にTMSを当てた際の麻痺側内側広筋のMEPが、非損傷半球にTMSを当てた際の麻痺側内側広筋のMEPより大きい患者ほど)

f:id:onishisora23:20210920234611p:plain

以下の論文は、脊損患者に対して、4か月間の歩行トレーニング前後における皮質脊髄路興奮性の指標である筋間コヒーレンスのβ帯域の変化と歩行回復との関係を検証している。結果、歩行トレーニングによる筋間コヒーレンスの増大(皮質脊髄路の興奮性の増大)は、歩行回復と優位に関係していた。(コヒーレンスの変化が乏しい症例においては歩行能力も低いままであった)

f:id:onishisora23:20210920234649p:plain

皮質脊髄路興奮性の低下は、歩行時の足下がりや底屈モーメントの減少と関係

上の論文は、慢性期の脳卒中患者を対象に、遊脚期における前脛骨筋のコヒーレンスと歩行時の足下がりの関係を調べたものである。

非麻痺側前脛骨筋に比べると、麻痺側前脛骨筋のコヒーレンス(皮質脊髄路の興奮性)は、遊脚期の初期で特に減少しており、これが歩行時の足下がりと関係していることがわかった。

下の論文は、慢性期の脳卒中患者を対象に、麻痺側足関節底屈筋のMEPの大きさと歩行速度、立脚後期での底屈モーメントの関係を調査したものである。左のAは麻痺側足関節底屈筋のMEPが小さい患者(非麻痺側底屈筋のMEPとの非対称が大きい)、Bは麻痺側足関節底屈筋のMEPが大きい患者(非麻痺側底屈筋のMEPとの非対称性が小さい)を示している。

結果、麻痺側足関節底屈筋のMEPが大きい患者ほど(非麻痺側足関節底屈筋のMEPとの非対称性が小さい)、歩行速度が速く、立脚後期での底屈モーメントが大きかった。

f:id:onishisora23:20210920234716p:plain

皮質脊髄路の興奮性を高めるトレーニングとは!?

では、皮質脊髄路の興奮性を増大させるトレーニングとは何か。歩行トレーニングの量が重要。以下の論文は、慢性期の脳卒中患者を対象に、4週間一般的なリハを受けたコントロール群とコントロール群に4週間の歩行トレーニングを追加した介入群において、トレーニングの前後での前脛骨筋と母趾外転筋のMEPを測定している。

結果、介入群において、両筋のMEPが増大していることが分かった。(介入群において、バランス能力も向上したみたいです。)

f:id:onishisora23:20210920234739p:plain

また、脳を直接刺激するようなtDCSや末梢電気刺激も皮質脊髄路の興奮性を高めると言われています。特に歩行トレーニングにtDCSや末梢電気刺激を組み合わせたトレーニングや、tDCSと末梢電気刺激を組み合わせたトレーニングなども有効であると報告されています。

f:id:onishisora23:20210920234758p:plain

⑤運動機能や歩行能力の回復に関係する脳の可塑性とは

上の論文は、上肢の研究ですが、皮質脊髄路の損傷の程度により分けている。左のように皮質脊髄路の損傷が軽度である患者においては、一次運動野の周囲にある補足運動野や運動前野などの損傷半球における周囲の領域が活性化する。

また、右のように皮質脊髄路の損傷が大きい患者においては、損傷半球では回復をアシストすることが困難であるため、非損傷半球の運動前野や補足運動野が回復をアシストします

また、皮質脊髄路の損傷が重度な患者は、下肢運動時や歩行時においても、非損傷半球の活動が高まることを特徴としている。また、この非損傷半球の活性化は下肢機能や歩行回復に重要である可能性があります。(代償経路の興奮性を高める)

f:id:onishisora23:20210920234819p:plain

--------------------------------------------------------------------------------------------------

皮質脊髄路興奮性の大きさは下肢機能や歩行回復に重要であることがわかります。