皮質脊髄路(CST)損傷後早期には網様体脊髄線維が可塑性に関与する

今回も、皮質脊髄路(CST)損傷後の可塑性についてです。

前回は、非損傷側のCSTや大脳皮質が、可塑性に関与するということを述べましたが、今回は皮質下である脳幹からの下行経路(網様体路)についてお話します。

こちらも動物実験ではありますが、以下の論文を紹介します。

Sprouting of Brainstem–Spinal Tracts in Response to Unilateral Motor Cortex Stroke in Mice. Lukas C. Bachmann,2014

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Sprouting of Brainstem–Spinal Tracts in Response to Unilateral Motor Cortex Stroke in Mice. Lukas C. Bachmann,2014

 

purpose

脳卒中により、ほぼ完全なCSTの損傷を有したマウスにおいて、運動機能の回復と、それに伴う皮質および皮質下脳領域からの新たな神経接続を検証すること

 

method

28匹のマウスに対して右感覚運動野を損傷させ左頚髄(C6,7)への経路を障害させた。

 

実験①:受傷2day(d)、4d、7d、14d、21d、28d後において、a,右前肢と左前肢の使用率、b,回転棒の上で転倒せずに歩行できた秒数、c,垂直のロープを上り終える秒数、d,麻痺肢を正しくステップできた割合を測定した。

 

実験②:受傷2day(d)、4d、7d、14d、21d、28d後において、皮質脊髄や脳幹脊髄の可塑的変化を測定し、無傷のラットと比較した。(左前肢の訓練と併用)

 

実験③:受傷28d後に、無傷である左感覚運動野を損傷させた。2回目の損傷2d、4d、7d後において、再度実験①および②を測定した。

 

result

実験① 

28d後においても左前肢は右前肢に比べて使用率は低下したままであった。C-Eの各課題においては、受傷前ほどではないが、それぞれ改善を認めた。特に、7d後における改善が大きかった。

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図1.B:左右前肢の使用比率 C:回転棒課題 D:ロープを登る課題  E:ステップ課題

 

実験②

図2,3:左前肢の28d間の訓練により、赤丸で示す、損傷と対側のM1、損傷と同側のS2(感覚野)、両側のNRGI(巨大網様体核)、対側のMd.V.D(背側および腹側網様体核)、両側のRa(縫線核)の細胞数が増大した。(特に網様体と縫線核)

 

図4:赤丸で示す、脳卒中により皮質からの投射を失った頚髄へ、両側の縫線核および網様体核が神経線維を増大させていた(網様体-脊髄経路)。

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図2.無傷ラットと受傷ラットの細胞数の変化(赤色ほど細胞数の増加を示す)

左:無傷ラットの細胞数の変化 中央:受傷ラットの細胞数の変化 右:それぞれの違い

 

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図3.皮質、皮質下における細胞数の変化(図2を細かくグラフ化したもの)

 

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図4.頚髄への神経線維数の変化、特に神経接続が増加した部位(F,G)

 

実験③

二回目の脳卒中により、回復していた機能が再び低下した。

図5.2回目の脳卒中後の運動機能の変化

 

conclusion

片側のほぼ完全なCSTが損傷したラットにおいて、損傷と同側の感覚野と対側の一次運動野、両側の網様体と縫線核の細胞数が増大することが明らかになった。また、

片側のCSTの損傷後の可塑的変化として、網様体核と縫線核からの神経線維が増大していたことから、運動機能の回復に皮質-網様体経路や脳幹-脊髄経路(網様体脊髄路など)が可塑性に関与していることが推察される。

特に今回のような発症早期では、網様体などの脳幹から脊髄への経路が可塑性に関与している可能性がある。

 

(補足:縫線核はセロトニンを供給する細胞の一つです。セロトニンは、感覚および運動脊髄経路に神経調節作用を有すると言われています。※1)

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このように、CST損傷後には、非損傷側のCSTや皮質網様体路、脳幹からの下行路(網様体脊髄路や前庭脊髄路※2.3)が可塑性に寄与します。

また、これらの可塑性は損傷の大きさや損傷後の時期により異なります。

 

少し関係はないですが、片側の完全脊損後では、それより上位の皮質網様体線維が、非損傷脊髄を迂回して損傷以下のCSTへ橋をかけたりもするそうです。

(以下の図※4)

       

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references

  • ※1:Schmidt BJ
  • Jordan L  

(2000The role of serotonin in reflex modulation and locomotor rhythm production in the mammalian spinal cordBrain Res Bull 53:689710doi:10.1016/S0361-9230(00)00402-0pmid:11165804

※2:Bareyre FM, Kerschensteiner M, Raineteau O, Mettenleiter TC, Weinmann O, Schwab ME (2004) The injured spinal cord spontaneously forms a new intraspinal circuit in adult rats. Nat Neurosci 7:269-277.

※3Courtine G, Song B, Roy RR, Zhong H, Herrmann JE, Ao Y, Qi J, Edgerton VR, Sofroniew MV (2008) Recovery of supraspinal control of stepping via indirect propriospinal relay connections after spinal cord injury. Nat Med 14:69.

※4:Bridging the gap: a reticulo-propriospinal detour bypassing an incomplete spinal cord injury.Linard Filli,2014