脊髄損傷後の可塑性には、脊髄介在ニューロンが重要

今回は、脊髄介在ニューロンについてです。

脊髄介在ニューロンは、脊髄損傷や皮質脊髄路(CST)などの下行路が障害された際に可塑性に大きく関与します。動物実験で明らかにされていることが多いですが、人と哺乳類動物から記載された以下のレビューを紹介します。

Propriospinal Neurons: Essential Elements of Locomotor Control in the Intact and Possibly the Injured Spinal Cord. Alex M. Laliberte,2019

--------------------------------------------------------------------------------------------------

Propriospinal Neurons: Essential Elements of Locomotor Control in the Intact and Possibly the Injured Spinal Cord. Alex M. Laliberte,2019

①脊柱上運動野からの運動指令を伝達する脊髄介在ニューロン

脊髄介在ニューロンは、脊髄上運動野からの指令を脊髄や運動ニューロンに伝えるニューロンである。脊髄介在ニューロンには、各脊髄内にとどまるニューロンと各関節をまたぐ長い神経とが存在する。(図1)

 

         f:id:onishisora23:20210307212034p:plain

図①:頚髄、胸髄、腰髄上の脊髄介在ニューロンを示す

②CPGを支配するいくつかの脊髄介在ニューロン

脊髄CPGは、脊髄の長さに沿って、複数のCPGから構成されているのではないかと提案されている。短い脊髄介在ニューロンは、頚髄・腰髄に隣接するCPGへ運動命令を伝達する。長い脊髄介在ニューロンは、頚髄と腰髄のそれぞれのCPGへ運動指令を伝達する。(※1,2)

                                     f:id:onishisora23:20210307214510p:plain

図2:腰部中心パターン発生器(CPG)を支配するいくつかの脊髄介在ニューロン

脊髄介在ニューロンには多様性があり、V0-V6までの種類が存在すると人と哺乳類の実験から示されている。(図3,長いニューロンと短いニューロン、左右下肢の切り替えや屈筋伸筋の切り替え、感覚情報を伝えるなど)

このような様々な脊髄介在ニューロンがCPGへ情報を伝達することで、対照的な歩行が達成されている。

f:id:onishisora23:20210307220930p:plain

図3:それぞれの脊髄介在ニューロンの特徴

③頚椎と腰椎関節内CPGを連絡する脊髄介在ニューロン

胸髄に存在する脊髄介在ニューロン(長い脊髄介在ニューロン)は、頚髄と腰髄に存在する脊髄介在ニューロン・CPGへ情報を伝達するとされています。(図4)

         f:id:onishisora23:20210308072822p:plain

図4:頚椎と腰椎CPGを結ぶ脊髄介在ニューロン

ラットを用いた実験では、実験的に胸髄損傷を起こすと、前肢と後肢の協調性が低下することがわかっています。(図5)

           f:id:onishisora23:20210308135433p:plain

図5:胸髄損傷マウスの前肢と下肢の協調性

Juvin, L., Gal, J.-P. L., Simmers, J., and Morin, D. (2012). Cervicolumbar coordination in mammalian quadrupedal locomotion: role of spinal thoracic circuitry and limb sensory inputs.

また、同じく胸髄損傷マウスは、四足歩行訓練を行うと二足歩行訓練を行った場合に比べて、後肢の筋活動が増大すること(図6)や、胸・腰髄の神経線維が増加することが示されています。(図7)これは、胸髄損傷により、頚髄と腰髄の神経連絡が断たれた時、無傷の胸髄脊髄介在ニューロンが、腰髄への神経連絡へ関与したと言える。

     f:id:onishisora23:20210308220456p:plain

     

     f:id:onishisora23:20210308220721p:plain

図6,7:胸髄損傷マウスの四足歩行訓練による後肢筋活動と神経線維数

QT:四足歩行 BT:二足歩行 NT:非損傷群

Shah, P. K., Garcia-Alias, G., Choe, J., Gad, P., Gerasimenko, Y., Tillakaratne, N., et al. (2013). Use of quadrupedal step training to re-engage spinal interneuronal networks and improve locomotor function after spinal cord injury.

④感覚FB情報(皮膚感覚や固有感覚)を伝える脊髄介在ニューロン

腰部脊髄の脊髄介在ニューロン(dI3 INs)は、皮膚や固有感覚入力と腰髄上の入力を統合して腰髄CPGへ伝達する(図8,A)。そのため、脊髄損傷や脳卒中により、下降運動指令がない場合にCPG活動を復活させるのに重要であるとされている。これらの脊髄介在ニューロンの集団を直接刺激するか、あるいはその可塑性を高めて腰髄回路との接続性を促進することは、失われた運動機能を回復させるための効果的な治療アプローチの一部となりうる。(図8,B)

f:id:onishisora23:20210308221721p:plain

図8:感覚FB情報(皮膚感覚や固有感覚)を伝える脊髄介在ニューロン

A:正常 B:腰髄上損傷 C:dl3損傷

Bui, T. V., Stifani, N., Akay, T., and Brownstone, R. M. (2016). Spinal microcircuits comprising dI3 interneurons are necessary for motor functional recovery following spinal cord transection.

⑤脊髄損傷によるCSTなどの下行路の遮断後は、脊髄介在ニューロンが可塑性に関与

マウスの実験では、皮質脊髄路網様体脊髄路損傷後には、脊髄介在ニューロンが病変部を迂回して、運動機能を回復させることが示されている。また、リハビリテーションの実施は脊髄介在ニューロンと接続する線維数を優位に増加させる。(図9、E,H)

このように脊髄介在ニューロンは、高次運動指令を脊髄回路に伝達する役割を持ち、失われた運動入力を回復させるために、病変部位を迂回する。さらに、脊髄介在ニューロンが病変部を迂回するのに必要な距離が、皮質や脳幹のニューロンからの軸索に比べて短いことから、再生アプローチの対象としてはより容易であると指摘されている。

   f:id:onishisora23:20210308224456p:plain

図9:脊髄損傷マウスにおける脊髄介在ニューロンの可塑性

Loy, K., and Bareyre, F. M. (2019). Rehabilitation following spinal cord injury: how animal models can help our understanding of exercise-induced neuroplasticity.

 

まとめ

以上のように動物実験が中心ではありますが、脊髄介在ニューロンは、CPGや運動ニューロンへ情報を伝達させるために重要です。そして、脊髄損傷や上位中枢損傷後の可塑性に大きく関与することがわかりました。

   f:id:onishisora23:20210308230624p:plain

図10:脊髄介在ニューロンの可塑性

 

1,Mantziaris, C., Bockemühl, T., Holmes, P., Borgmann, A., Daun, S., and Büschges, A. (2017). Intra- and intersegmental influences among central pattern generating networks in the walking system of the stick insect. 

2,Gerasimenko, Y., Gad, P., Sayenko, D., McKinney, Z., Gorodnichev, R., Puhov, A., et al. (2016). Integration of sensory, spinal, and volitional descending inputs in regulation of human locomotion. 

 3,Dougherty, K. J., Zagoraiou, L., Satoh, D., Rozani, I., Doobar, S., Arber, S., et al. (2013). Locomotor rhythm generation linked to the output of spinal shox2 excitatory interneurons. Neuron 80, 920–933. doi: 10.1016/j.neuron.2013.08.015