歩行適応に関わる領域

今回は歩行の適応についてのレビューを紹介します。

歩行の適応には、もちろん脳の様々な部位が関係しておりますが、適応の段階ごとに関与する部位も異なるようです。

Understanding Human Neural Control of Short-term Gait Adaptation to the Split-belt Treadmill.Dorelle C. Hinton,2020

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introduction

私たちは、歩行パターンを調整して適応させる能力を、各脚が独立して駆動するスプリットベルト式のトレッドミルを用いて研究してきました。

スプリットベルトの適応の過程には調整(adjustment)、適応(adaptation)、貯蔵(storage)がある。調整は、スプリットベルトトレッドミルを初めて体験したときに起こる、両脚支持期に費やす時間と歩行サイクル時間の増加、遅いベルトでの立脚に費やす時間の増加、速いベルトでの遊脚に費やす時間の増加が含まれる(Dietz et al., 1994; Prokop et al., 1995; Reisman et al., 2005; Zijlstra and Dietz, 1995)。適応は、非対称の歩行サイクルをよりスムーズで対称的なパターンに変えていく過程である。運動学的には、適応の過程で地面反力と下肢筋活動が減少し、典型的な定常状態の歩行と同程度のレベルになります(Dietzら、1994年、Mawaseら、2013年、Ogawaら、2012年、2014年、2018年)。スプリットベルトを長時間使用すると、運動適応、すなわち運動に関する内部感覚運動マップの再編成が起こります。この再編成は、新たに学習した効率的な運動パターンを、スプリットベルト歩行という変化した状況に適用することを予測している。貯蔵とは、摂動が取り除かれて環境が正常に戻ると(すなわち、ベルトが同じ速度に戻ると)、後遺症と呼ばれる運動エラーが発生するが、以前に適応したパターンの記憶により再度対照的な歩行を可能になる段階である。

Dietz V, Zijlstra W, Duysens J (1994) Human neuronal interlimb coordination during split-belt locomotion. Exp Brain Res101:513–520

Reisman DS, Block HJ, Bastian AJ (2005) Interlimb coordination during locomotion: what can be adapted and stored? J Neurophysiol 94:2403–2415

Zijlstra W, Dietz V (1995) Adaptability of the human stride cycle during split-belt walking. Gait Posture 3:250–257.

Mawase F, Haizler T, Bar-Haim S, Karniel A (2013) Kinetic adaptation during locomotion on a split-belt treadmill. J Neurophysiol 109:2216–2227.

Ogawa T, Obata H, Yokoyama H, Kawashima N, Nakazawa K (2018) Velocity-dependent transfer of adaptation in human running as revealed by split-belt treadmill adaptation. Exp Brain Res 236:1019–1029.

porpose

スプリットベルトトレッドミルに対するヒトの歩行適応の神経制御に関する主要な仮説をまとめるために、最新のモデルを提供するために文献を系統的にレビューすること

 

result

①小脳と歩行適応

図1に示すように小脳はadaptationとstorageに特に大きく関与する可能性が高い。

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図1:小脳患者と歩行適応のレビュー

1,Cerebellar Contributions to Locomotor Adaptations during Splitbelt Treadmill Walking Susanne M. Morton,2006

3,Adaptation and aftereffects of split-belt walking in cerebellar lesion patients

Wouter Hoogkamer,2015

1の文献(Mortonら)は、ICARSのスコアが30以上、姿勢とゲイトICARSのサブスコアが10以上の重度小脳失調患者が対象であり、失調スコアが重症な患者では、スプリットベルトの非対称性は改善されず、aftereffect(strage)も少なかったと報告されている(図2,3)。

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図2:重度小脳失調患者はスプレッドベルトの歩行適応が全体的に障害

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図3:重度小脳失調患者はスプレッドベルト後のaftereffect(strage)が障害

一方、3の文献はICARSスコアは0〜19であり、10以上のスコアを持つ患者は3人だけの軽傷患者が対象である。失調スコアが軽症である場合では、adaptation時の下肢関節角度は健常者と同様になるが、立脚期時間は健常者と比べて非対称性が残る。(図4,adaptaionへの影響は少ない)

一方、スプリットベルトを戻した直後(post)の時空間的非対称性は強かったことから、軽症患者であってもpost(strage)での障害が生じる可能性がある。(図4)

また、このstrageの障害は過剰な適応が起きていることも示された。(図5)

そして、post(strage)の障害が大きい患者では、後部虫部(背側小葉VIおよびCrus II)に病変がある可能性が高かった。これらの領域は主に大脳辺縁系や前頭頭頂と背側の注意ネットワークに関連していると考えられており、CrusIIは視覚運動適応に関係している。

 

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図4:小脳患者と健常者の対称性を示す

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図5:速い速度と遅いベルトでの立脚期時間の変化

初めは、高速側では立脚期時間は短縮するが、徐々に立脚期時間は延長する。また、遅い側では立脚期時間は延長するが、徐々に短縮する。これが、post(strage)では高速側では過剰に延長し、遅い側では過剰に短縮する。

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図6:post(strage)の障害が大きい患者の障害部位

 

②大脳皮質と歩行適応

図7に示すように大脳皮質はadaptationに関係する可能性が高い。

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図7

12,Spatial and Temporal Asymmetries in Gait Predict Split-Belt Adaptation Behavior in Stroke.Laura A. Malone,2014

28,Vasudevan EV, Glass RN, Packel AT (2014) Effects of traumatic

brain injury on locomotor adaptation. J Neurol Phys Ther 38:172–182.

12の文献で示すよう、stroke群は時空間的非対称性は徐々に改善されるがその適応は遅いことがわかる(図8)。また、図9はスプリットベルト後における時空間的対称性の変化を示している。スプリットベルトにより、時間的対称性が改善する患者もいれば悪化する患者もいる、また空間的対称性が改善する患者もいれば悪化する患者もいる。特に、歩幅と空間的対称性は改善しやすい

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図8:ステップ、下肢関節角度、立脚期時間の対称性を示す

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図9:非対称性が改善された被験者は緑色の部分に、悪化した被験者は赤色の部分に見られるようになっています。さらに、過適応(残効が絶対的な対称性を超えてしまった、灰色の部分)の被験者もいれば、過小適応(青色の部分)の被験者もいる。

 

③感覚情報と歩行適応

図10に示すように前庭は適応に大きく関与しないが、視覚は関与する可能性がある。

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図10

 

基底核と歩行適応

図11に示すように、パーキンソン病患者は、歩行適応は障害されにくい。

重症者では、adaptationが遅いという報告もある。

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図11

⑤脊髄CPGと歩行適応

脊髄CPGはadjustに関係する。そのため、対称性の有無にかかわらず、そもそものスプリットベルトでの歩行を可能にするのは脊髄である可能性がある。

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図12

 

conclusion

大脳皮質はadaptationに関係する。大脳皮質が損傷してもadaptationは生じるが、ゆっくりであり非対称性は残存しやすい。

小脳はadaptationとstorageに関係する。小脳の損傷は、adaptationが小さかったり、生じない場合もある。また、病巣によりstorageの障害も起きる。

CPGはadjustmentsに関係する。特に、スプリットベルトでの歩行を可能にするのはCPGが起源である。

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